定番靴下の見直し
「定番リブ靴下(紳士)」の更なる進化をめざします。
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衣服雑貨部
STEP1.プロジェクトの始まり
無印良品の「足なり直角靴下」
誕生のきっかけは、チェコのおばあちゃんとの出会いでした。
チェコのおばあちゃんが手編みで編んだ「直角」の靴下
この靴下は“履く人のことを考えて、履き心地の良さを追求し、履く人に喜んでもらえる靴下”でした。
そんなチェコのおばあちゃんが編んだ「直角靴下」の心地よさを、もっと多くの人に届けたい。
そんな想いから多くの生産工場のご協力のおかげで機械編みで「直角靴下」を実現することができました。
(参考:プロジェクト「足なり直角靴下」)
2006年の発売当初にはたった3アイテムでのスタートでしたが、「足なり直角靴下」は多くのお客様にご愛用いただき2010年2月には無印良品のすべての靴下が「直角」になりました。
足なり直角靴下の特長
1)かかとにフィット
ひとのかかとは直角。だから、かかとにフィットするよう、かかとを直角形状に。
2)ずれ落ちない
かかとがしっかりホールドされるので、動いてもずれにくい。
3)心地よい履き心地
締め付けをきつくしなくてもずれにくいから心地よい。
性別や年代問わず、その履き心地の良さとかかとのフィット感から「履き心地がよくってリピートしちゃう」「程よくフィットしかかとがずれてこない」とお客様から嬉しいコメントをいただいています。
これまでにも種類や色などバリエーションを増やし、さらに履き心地の良さを追求し、「足なり直角靴下」は進化をつづけ、無印良品の定番商品となりました。
無印良品で販売している靴下の丈についてご紹介します。
色々な丈の直角靴下がありますが、紳士靴下では年間を通して、レギュラー丈の靴下(レギュラーソックス)が人気です。
プライベートでも、ビジネスでも活躍するレギュラーソックスは毎日の定番靴下です。
更なる進化をめざし、これからも「毎日の定番」として愛用し続けていただけるような商品にしたいと考え、定番品を見直すプロジェクトの一つとして、レギュラーソックスの一つである「リブ靴下(紳士)」と向き合うことにしました。
STEP2.より「ずれ落ちにくい」靴下を目指して
足なり直角靴下がずれ落ちにくく心地よい秘密は「かかとが直角」にあります。
では、それ以外の部分はどうでしょうか?
(参考:プロジェクト「足なり直角靴下」STEP.4 心地良さのわけ② ─直角靴下は心地良い?─)
リブ編みの靴下に限りませんが、日頃レギュラー丈の靴下を着用しているとレッグ部分がずれ落ちてくることがあります。
いつもずれ落ちるわけではないのですが、開発担当者で話をしていると意外とみんな同じ認識を持っていました。さらに担当者のうちのほとんどが「ずれ落ちたら都度引き上げる」と言います。
レギュラー丈の靴下はくるぶしとふくらはぎの中間の丈です。
ヒトの足はくるぶしからふくらはぎにかけて徐々に太くなっているので、くるぶしとふくらはぎの中間に履き口がある丈の靴下はどこにも引っかかるところがなく、他の丈の靴下よりもずれ落ち易くなってしまいます。
一般的には履き口や足首の締め付けを強くしたり、履き口のゴム幅を広くしたりすることでずれ落ちにくくなるよう工夫されていますが、締め付けを強くしてしまうと「きつさ」を感じたり、「かゆみ」が生じたりしてしまい、履き心地のよい靴下ではありません。
「程よい締め付け感で、さらにずれ落ちにくくなれば毎日着用する靴下としてもっと喜んでいただけるに違いない」
そんな想いから“程よい締め付け感でさらにずれ落ちにくい靴下”を目指し、レッグ部分を中心に改良を始めることにしました。
糸の太さやレッグ部分の構造、締め付け強さ・・・これらをどうしたら「最もずれ落ちにくい」のでしょうか?
特殊な糸や特殊な構造・特殊な技術を使うのではなく、まずは今あるリブ靴下の材料やレッグ部分の構造についてずれ落ちにくくする条件を探ることにしました。
靴下を編むのに必要な糸は主に3種類。
靴下は表糸・裏糸・ゴム糸を編んでつくられています。
それぞれの糸で異なる太さの糸を準備し、その糸を使ってレッグ部分の構造や締め付け強さなどの編立条件を何パターンかに分けて様々な靴下を試作します。
「ずれ落ちにくくする条件」を探るためにつくられた靴下は、締め付け具合が程よい靴下もあれば、長時間着用しているのが難しいほどきつい靴下もあり、厚みも薄い靴下や厚い靴下など様々な靴下が出来上がりました。
出来あがった靴下は実際に着用したときの「ずれ落ち量」を測定し、評価します。
靴下は足のサイズでその大きさが決められていますが、同じ足のサイズでも履き口付近の脚の太さは人それぞれ。細い人もいれば、太い人もいます。
私たちの目指す靴下は特定の脚の太さの人だけでなく、より多くの方に「ずれ落ちにくい」と感じていただける靴下です。
そこで、ふくらはぎの太さが異なる人(細い人、太い人、その中間の人)で実験を行うことにしました。
ずれ落ち量測定の手順
- 1)靴下を着用する
- 2)靴下の履き口の位置をマーキングする。
- 3)エアロバイクを時速18kmで2分こぐ。
- 4)きつさについてアンケートに回答する。
- 5)靴下の履き口の位置をマーキングする。
- 6)続けてエアロバイクを時速18kmでさらに2分こぐ。
- 7)靴下のズレを測る。
様々な靴下のずれ落ち量測定結果から、脚の太さにかかわらず、各設計要素が「ずれ落ち」に対してどのように影響するのかが分かりました。
また、きつさアンケートの結果からは「程よい締め付け感」の指標を得ることができました。
この結果から程よい締め付け感で、脚の太さにかかわらず、ずれ落ちにくくなるような靴下を設計し、いよいよ試作に入ります。
きちんと狙い通りに「ずれ落ちにくい」靴下になっているのか楽しみです。
次回は出来上がった試作品についてご紹介します。
STEP3.試作品ができました
STEP.2でお伝えしたように、様々な特徴の靴下を試作し、それら靴下を着用した時のずれ落ち量測定の結果から、靴下の各設計要素が「ずれ落ち」に対してどのように影響するのか、が分かりました。
その結果ときつさアンケートから得られた「程よい締め付け感の指標」から、脚の太さに影響されず「程よい締め付け感でずれ落ちにくくなるような靴下」を実現するための設計条件を決定しました。
通常の開発では、つくりたい靴下の企画内容に沿って、工場の知識や経験を基にベースとなる靴下を修正し、修正したサンプルを数名で試し履きをしては微調整を繰り返して企画に沿った靴下をつくっています。
今回は通常の開発方法と異なり、まず各設計要素の影響を調べ、そこから目指す靴下の「設計条件」を先に組み立てて、製品をつくり上げるという手法をとっています。
ベースとなる靴下から微調整を繰り返してつくる方法と異なり、【設計条件に基づいて、製品をつくり上げる】には、工場の高い製造技術が必要になります。
各設計要素の条件は細かく設定しているので、少しでも狙い通りにつくれなければ特性が大きく異なってしまい、目指す靴下にはなりません。
また、狙い通りの「設計値」になっているだけでなく、安定して量産できることも重要なポイントです。
それらを踏まえて工場で実現に向けて最終微調整を繰り返してもらいます。
「設計値」が決まってから2か月―
ついに工場から「設計条件通りの靴下ができました!」という連絡が入りました。
開発品は、「履き心地も良くなっている気がします。」というコメント付きで私たちの手元に届きました。
届いた開発品を見たところ、見た目は現行品と同じリブ編みの普通の靴下。
それでもきちんと私たちの求める靴下になっているのでしょうか?
(左)現行品・(右)開発品
早速着用してみたところ、きつくなく、ゆるくもなく、程よい締め付けです。工場からのコメント通り、なんだか履き心地も良くなっているような気がします。なかなか良さそう。
あとは、「ずれ落ちにくさ」です。脚の太さにかかわらず、ずれ落ちにくくなっているのでしょうか?
履いてみただけでは分かりませんので、前回と同じように異なる脚の太さの人が着用し、エアロバイクを使ってそれぞれの「ずれ落ち量」を現行品と比較します。
現行品に比べてずれ落ち量が少なくなりました。
もちろんこの結果は歩き方や履き方などの個人差によって異なってしまうかもしれませんが、少なくとも一定の動作において、現行品よりも開発品の方がずれ落ちにくくなったと言えそうです。また、脚の太さによる差も少なくなることも分かりました。
しかし、一定の動作では確認しましたが、普段の生活で一定の動作をし続けることはあまりありません。朝靴下を着用してから家を出るまでの間だけでも“座る”、“立つ”、“歩く”、“靴を履く”など様々な動作を行っています。はたして、普段の生活においてもずれ落ちにくくなっているのでしょうか?
また、無印良品で働くスタッフだけでなく、多くのお客さまにとっても、ずれ落ちにくく・履き心地の良い靴下に仕上がっているのでしょうか?
これらを確認するために、一般の方に協力して頂き、ホームユーステストを実施することにしました。
次回はホームユーステストで一般の方に試していただいた結果をお伝えします。
ホームユーステストとは?
主に一般消費者の方に新製品または改良品(試作品)や既に発売している自社製品と競合製品などを、家庭で実際に利用してもらい評価してもらう製品評価の手法です。
STEP4.開発品は「ずれ落ちにくい」って実感できる?
様々な靴下から各設計要素の影響を調べて「ずれ落ちにくい」を目指して組み立てた靴下。
はたして普段の生活においても、みなさんに「ずれ落ちにくい」と実感して頂ける靴下になっているのでしょうか?
事前にアンケートにご協力いただいた8,966名の一般男性の中から、ホームユーステストにご協力いただける方を募集し、実際に普段の生活の中で試していただくことにしました。
試していただく靴下は2種類。
「開発品」と2017年に発売した「リブ靴下(=現行品)」をお送りし、両方の靴下を試していただきました。
どちらがどんな靴下であるのかを事前にお知らせしてしまうと「靴下」そのものの正しい評価ができませんので、試していただいた靴下がどういう靴下なのかはお伝えしていません。
アンケートは「普段履いている靴下」と比べた場合と、「試してもらった2種類」を比べた場合で回答していただきました。
ホームユーステスト概要
- 実施期間:
- 2018年4月22日(日)~5月13日(日)
- 対象者:
- 20~50代の男性88名
- 脚の太さ(履き口の太さ)[23cm~40cm]
- 着用時間[4時間以上]
- 対象条件:
- ・靴下のサイズ25~27cm
- ・週4日以上レギュラー丈の靴下を着用している人
普段履いている靴下と比べてください
Q1.普段履いている靴下と比べて着用中に「ずれ落ちた感じ」はありましたか?
およそ8割の人が普段履いている靴下よりも「ずれ落ちる感覚がなかった」と回答しています。
「実際にずれ落ちた」のとは異なりますが、歩いていてずれ落ちた感じがすると気になってしまうので、大事なポイントです。
Q2.普段履いている靴下と比べて「実際にずれ落ちましたか」?
「1度もずれ落ちなかった」「普段履いているものよりずれ落ちなかった」と回答した人を合わせると87.5%でした。
今回のホームユーステストではどの靴下も「4時間以上の着用」をお願いしていたのですが、実は9割のモニターの方が8時間以上着用してくださいました。
多くの方に、長時間の着用でもずれ落ちずに快適に履き続けていただける靴下だということが分かりました。
Q3.普段履いている靴下と比べて履き心地はどうでしたか?
65%以上の人が「開発品の方が履き心地が良い」と回答しています。
普段履いている靴下よりも履いた時に心地よいと感じていただける靴下になっているようです。
Q4.きつさ・締め付け感はどうでしたか?
7割以上の人がきつさや締め付けを感じなかったと回答しました。
「程よい締め付け」を目指した靴下なので、多少の締め付けを感じる方もいらっしゃいましたが、「きつすぎて履けない」人や「締め付けすぎて痛い」という人は一人もいませんでした。
ここからは試していただいた2種の靴下(現行品と開発品)を比べてもらいました。
脚は人間の体の中でも比較的鈍感な部分と言われています。
見た目も手で触った感じも違いは分からない2つの靴下。
みなさんにはどのように感じていただけるのでしょうか?
2種類の靴下を比べてください
Q5.どちらの方が「ずれ落ちにくかった」ですか?
最も多かったのは「どちらも変わらない」と回答した人ですが、残りの半数では開発品の方が「ずれ落ちにくい」と回答した人が多くいました。
現行品は「直角靴下」なので、その分「ずれ落ちにくい」と感じていただける靴下なのですが、より開発品の方が「ずれ落ちにくさ」を実感していただけているようです。
Q6.どちらの方が「履き心地が良かった」ですか?
2つの靴下の履き心地は「どちらも変わらない」と回答した人が最も多くいました。
これはどちらも「直角」だからでしょうか。
それでも残りの5割弱のうち、開発品の方が「履き心地が良い」と回答した人の方が多くいました。見た目や手で触った時の感触ではなかなか違いが分からなくても、着用していただくとその違いを「心地よさ」として感じていただけているようです。
まとめ
ホームユーステストの結果、「程よい締め付けでずれ落ちにくく、履き心地の良い」を目指して出来上がった靴下は、多くの方に実感していただける靴下だということが分かりました。
見た目には違いのない靴下でも履いてみるとその履き心地の良さを実感していただける靴下ですので、ぜひ履いてみてその良さを実感していただきたいと思います。
ホームユーステストにご協力いただいたみなさん、ありがとうございました。
STEP5.もう一つのこだわり
靴下の歴史はとても古く、「ヨーロッパ北部では古代人が寒さから足を守る工夫をしていた」ということが分かっています。また、実際に最古のペアの靴下として記録されているのはエジプトで発見された5世紀ごろのメリヤス編み靴下だそう。
日本では江戸中期にはすでに手編みの方法が日本に入ってきており、足袋の代用品として使われていたようです。
(参考:プロジェクト「足なり直角靴下」6.世の中の靴下は、なぜ直角ではないのかー靴下の歴史)
このように昔から靴下は足の保護や保温などの目的で着用されてきました。加えて、現代ではファッションアイテムでもあったり、着用することが相手への気遣いにつながることもあったり、毎日の生活に欠かせないアイテムとなっています。
毎日着用する靴下だからこそ、履き心地の良さだけでなく“耐久性”も大事。
せっかく気に入った靴下なら、できるだけ長く履き続けたいですよね。
でも靴下は床や靴の中で擦れるので、長く着用していると穴が開いてしまいます。
穴のあきやすい場所は人それぞれで違うのですが、主に歩き方やいつも履いている靴のサイズなどが関係しています。
自分の靴下を見てみると、どの靴下もだいたい同じ場所の生地が薄くなったり、穴が開いていたりしませんか?
靴下は「足の保護」の役割も担っているので、すぐに穴が開いてしまっては実用向きではありません。
衣料品などの繊維製品では、こういった毎日の生活活動の中で摩擦作用を受けて生地が摩耗した(表面が擦り減った)際の破れやすさを評価するために、JIS(日本工業規格)によって9種類の方法が定められています。
今回は9種類の中から、靴下の摩耗強さを評価するのに最適な「スチールブレード法」で開発品の摩耗強さを評価することにしました。
スチールブレード法(JIS L 1096 ①ユニホーム形 F-1法)
編物のひざ、ひじ、内股や靴下のつま先かかとなど、ニット製品のように伸びのある製品の評価に適用されます。
着用している状態に近くなるように靴下を少し伸ばした状態で機械にセットし、スチールブレードと土台を回転させながら靴下を多方向に摩擦します。靴下をセットした土台を1周させた時を1回とし、穴があくまでの回数を測定したり、上限回数まで摩擦したときの製品の状態を確認します。
摩耗強さ試験 ユニホーム形試験機
このスチールブレード法には一般的な指標があり、その指標となる回数分摩擦して靴下に穴が開かなければ、十分摩耗強度があると考えられています。
設定回数終了時点で穴が開いていない靴下は、こすられて生地が薄くなっていたり、毛羽立っているのが分かります。
現行品は、この一般的な指標よりも十分摩耗強度を強くしている靴下なのですが、開発品はその現行品よりもさらに摩耗強度を強くするために、つま先とかかとに補強糸を入れました。
現行品を100%とした場合の比較結果をご紹介します。
補強糸のおかげでつま先もかかとも、どちらも現行品よりも摩擦に対して強くなりました。
ついに目指していた「程よい締め付けでずれ落ちにくく、履き心地の良い靴下」の完成です!
ずれ落ちにくさや履き心地だけでなく、より長く履き続けてもらえるように進化した靴下は、毎日の靴下として自信を持っておすすめできる靴下になりました。
次回は、今回のプロジェクトに快く協力してくださった工場を紹介します。
(写真提供:一般財団法人ボーケン品質評価機構)
STEP6.生産工場を訪ねて
より良い商品をつくりたいと思っていても、その「思い」だけでは商品をつくることはできません。
その「思い」を形にできる技術力のある工場や、職人技を持つ生産者の協力があって、はじめてお客様に納得していただける商品を生み出すことができます。
このプロジェクトを通じて完成した「程よい締め付けでずれ落ちにくく、履き心地の良い靴下」もそういった商品のうちの1つです。
今回は生産してくださる工場をたずね、今回のプロジェクトを一緒に進めるにあたり苦労したことなどについてお話をお伺いしました。
靴下の主な生産の流れ
- 1.図柄の作成
- 2.糸の選定
- 3.編立
- 4.裏返し
- 5.先縫い
- 6.表返し
- 7.仕上げ
- 8.ペア工程・検査
- 9.出荷準備
- 10.倉庫・出荷
(参考:プロジェクト 足なり直角靴下 8.靴下ができるまで②-これが靴下工場です)
インタビュー
Q1.「各設計要素の影響を調べて組み立てる方法で開発したい」という話を最初に聞いた時、どのように思いましたか?
私たちが靴下をつくるときには過去のデータや他社製品を参考にして業界の常識や自社規格内で製品をつくり、数名で試着して良し悪しを決める事がほとんどだったので、今回の方法は概念自体無知でした。
この方法は新たな発想だと思い、どういった商品・設計値を導き出すことができるのか、興味深く思いました。
靴下会議
Q2.各設計要素の影響を探るために様々な靴下をつくっていただきました。
つくるときに、大変だったことはありましたか?
表糸や裏糸などの太さと設計内容が細かく決められていて、糸の組み合わせと設計が変わるごとにその指示通りに合わせてつくることに苦労しました。特に、糸の太さが変わってしまうと機械にセットしたときに糸にかかるテンションも少しずつ変わってくるので、1つずつ調整するのが大変でした。
また様々な靴下をつくりましたが、果たしてこれらの靴下からうまくデータが得られるのか不安もありました。しかし、各設計要素の影響をとらえた結果が導き出されたときは、とても安堵したことを思い出します。
指示通りの靴下ができているか機械やメジャーを使って何度も確認します。
Q3.完成した靴下の「実際のずれ落ち量測定結果」と「ホームユーステストでの結果」を見て、いかがでしたか?
これまでに生産してきた製品でも独自に「ずれ落ち」について企画・開発・検証はしてきましたが、靴下同士での「ずれ落ちにくさ」を比較追求しがちだったので、今回「各設計要素の影響から組み立てた予想」と「普段の生活を想定した検証」の結果が一致したことは非常に新鮮で、驚きでもありました。
Q4.「ずれ落ちにくい」リブ靴下を生産していくにあたり、気を付けていること・心がけていることを教えてください。
この靴下は、素材や構造、編立条件などが論理的に組み立てられた靴下なので、「設計条件通り」に編立てる事に気を付けています。
特に、重要なポイントになる設計箇所はより一層安定するように編み機を調整し、履き心地の良い製品をつくり届けられるように常に心がけております。
靴下を確認しながら編機を調整します。
最後に
新しい商品をつくり出すには試作段階から一緒に考えてくださる取引先や工場の協力が必要不可欠です。
プロジェクトの開始時に「通常の方法とは違った方法でずれ落ちにくい靴下を開発したい」という話をした時は、難しい顔をしていたみなさんが、説明の最後には「方法のことはよくわからないけど、なんだかおもしろそうですね!」と言ってくださった事や、工場を訪ねて開発の内容から検証結果まで一連の内容をお伝えしたところ、一つ一つの結果に対して驚き、興奮している姿が印象的でした。
このプロジェクトを快く引き受けてくださった関係者の皆さんに感謝いたします。
今回のプロジェクトに携わってくださったタイ靴下工場のみなさん
次回はいよいよ最終回。
発売する商品情報をお知らせいたします。
STEP7.商品発売のお知らせ
2016年秋から始まったこのプロジェクトもいよいよ大詰め。
開発した靴下は「ずれ落ちにくいリブ靴下」として2018年11月21日(水)に発売します。
今回は「ずれ落ちにくいリブ靴下」の開発のポイントと、商品詳細についてご紹介します。
開発のポイント
1)ずれ落ちにくい
一番のポイントは「ずれ落ちにくい」。
レッグ部分の構造や糸の組み合わせなどの設計要素を最も「ずれ落ちにくく」なるように独自の設計にしています。中でも、大きなポイントはレッグ部分に挿入したゴム糸。脚の太さが細い人も太い人も「ずれ落ちにくい」と実感できる靴下になっています。
2)程よい締め付け
ゆるくもなく、きつくもなく。伸びすぎず、締め付けすぎない。
ゆるいと「ずれ落ち感」があり、気になってしまいますし、きついと脚が締め付けられて痛みやかゆみが生じてしまいます。
レッグ部分に挿入したゴム糸は、きつくなりすぎず程よい締め付けが感じられるようにゴム糸の締め付け強さとレッグ部分の寸法にこだわりました。
歩いていてもあまりずれ落ちる感覚がなく、程よいフィット感を感じていただけます。
3)履き心地が良い
「足なり直角靴下」のかかと形状はそのまま。
かかとがフィットする履き心地に加え、レッグ部分に挿入したゴムが違和感にならないよう、裏糸には細い糸を使用し、さらに履き心地にこだわりました。
履いた直後から履き心地の良さを実感していただけます。
4)摩擦に強い
歩行時に力が入ったり、よく擦れたりする「つま先」と「かかと」に補強糸を入れ、摩擦にさらに強くしました。
ちょっとした着用のコツ
今回のリブ靴下。ちょっと履き方を気にするだけで、よりずれ落ちにくくすることができます。
何気ない些細なことですが、履き方のちょっとしたコツをご紹介します。
1)かかとを合わせる
足なり直角靴下シリーズの靴下はかかとが直角に編立てられています。
かかとがぴったりフィットするようにかかとの位置を合わせてみてください。
かかとをすっぽりと覆うように編み立てられている直角靴下は、歩くときのかかとや足首の動きに無理なく靴下が伸び縮みできるので、色々なところが引っ張られることなく、ずれ落ちにくくなります。
2)レッグ部分は全体を持ち上げる
履き口だけをつまむのではなく、全体を持ち上げて、レッグ部分が均等に伸びるように履いてみてください。
この時のコツは伸ばし過ぎず、弛ませないこと。
履き口だけをつまんで引っ張り上げると、あまり伸ばされていない足首は弛みやすくなり、たくさん伸ばされている履き口は足の動きに合わせて引っ張られて、次第にずれ落ちてきてしまいます。
また、全体的に思い切り伸ばしてしまっても同じように引っ張られやすくなって、ずれ落ちてきてしまいます。
レッグ部分は伸ばし過ぎず、弛まない程度に均等に伸ばすことによって、脚にフィットしてよりずれ落ちにくくなりますので、ぜひ試してみてください。
商品詳細
商品名 | 足なり直角 ずれ落ちにくいリブ靴下(紳士・えらべる) |
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サイズ | 25~27cm 28~30cm ※1 |
素材 | 綿、ポリエステル、ポリウレタン |
色 ※2 | 黒、オフ白、グレー、チャコールグレー、ダークネイビー、スモーキーブルー、カーキグリーン、スモーキーブラウン、ダークレッド(12/5発売) |
- ※1 28~30cmはネットストアのみの販売
- ※2 2018年11月21日時点での品揃え
- 季節により変更することがあります。
- スモーキーブラウンはネットストアのみの取り扱い
- ダークレッドは12/5~発売開始
今までの靴下のつくり方とは違った方法で出来上がった「ずれ落ちにくいリブ靴下」は無印良品のリブ靴下として、自信を持ってお勧めできる靴下になっています。
ぜひ履いてみて「ずれ落ちにくさ」や「履き心地」を実感していただきたいと思います。
最後に、アンケートにご協力いただきました皆さん、たくさんの試作にご協力くださった工場の方、本当にありがとうございました。
STEP8.特許取得のお知らせ
定番靴下の見直しプロジェクトを通じて改良したリブ編み靴下(紳士)。
現在では「足なり直角 リブ編み靴下(紳士・えらべる)」という商品名でお店に並んでいますが、2018年11月の発売以来とても多くのお客さまにご愛用いただき、無印良品の定番レギュラー丈靴下となりました。
ご愛用いただいているお客さまからも「1日履いても1回もずれ落ちませんでした」「これからはこの靴下をリピートします」などの嬉しいコメントをいただいております。
紳士靴下の中で最も人気のある丈は、レギュラー丈の靴下です。
レギュラー丈は、一般的に〇〇cmと長さが規定されているわけではありませんが、紳士のレギュラー丈といえば大体ふくらはぎ付近までの丈です。
ふくらはぎの太さは別の言い方に変えると、「下腿最大囲」と言って、身体のひざから下の間で最も太い部分です。
つまり、レギュラー丈の靴下は、ひざから下の間で最も太い部分に履き口があるので、歩いたり動き回っているといつの間にかずれ落ちてきてしまいます。
ずれ落ちを防止するために、一般的には履き口のゴムを強くしたり、レッグ部分(ふくらはぎから足首にかけて細くなる)の形状に合わせて段階編みにしています。しかし、履き口のゴムを強くすると、部分的に締め付けが強くなってしまい、痛みやかゆみが生じてしまいます。
また、レッグ部分の形状に合わせて、段階編みにすることは一見よさそうに感じますが、実際には人によって脚の太さが異なるため、結局ずれ落ちを解消することができませんでした。
このプロジェクトを通じて改良した「足なり直角 リブ編み靴下(紳士・えらべる)」の大きな特徴は、「ずれ落ちにくい」ということ。
そのヒミツは、無印良品オリジナルの編み方にありますが、この編み方は2020年に特許として登録されました。
今回登録になった特許の内容について簡単にご紹介します。
特許第6763099号
「発明の名称」
靴下
「背景」
靴下がずれ落ちてしまう原因は2つ考えられます。
・履き口部のゴムのサポート力不足
・人間の脚の形状(脚の太さがふくらはぎから足首にかけて徐々に細くなっていること)
これを解消するために履き口のゴムを強くすると、部分的に締め付けが強くなってしまい、痛みやかゆみが生じてしまいます。
また、人間の脚の形状に合わせて編み方を段階的にすると、脚の太さによってずれ落ちたり、ずれ落ちなかったりという現象が生じていました。
「特許技術概要」
靴下のレッグ部分(履き口部の下から足首部の間)において、部分的に過度の締め付け力を感じることがなく、脚の太さに拘わらずずれ落ちにくくするために、編み方を一定にし、レッグ部分に細いゴム糸を挿入した場合の最適な横方向の伸び寸の範囲を見出しました。
従来の靴下と特許技術を用いてつくった靴下を着用して、エアロバイクを用いた運動を行い、ずれ落ち量を比較したところ大幅にずれ落ち量が軽減されました。
この結果は動作を一定に統一した「エアロバイクを使った運動」の場合なので、運動強度や運動時間、振動などの要素、個人の歩き方などによって効果の度合いは変わってきますが、着用したらその違いを実感いただけるはずです。
「足なり直角 リブ編み靴下(紳士・えらべる)」はレッグ部分の形状に合わせて編み方を変えるのではなく、編み方は「一定」で、さらにレッグ部全体に細いゴム糸を挿入しています。
こうすることによって、部分的な締め付けを行わなくてもずれ落ちを防止できるので、履き口だけ締め付けを強くしたときの窮屈感・痛みなどの不快感を解消しました。
また、脚の形状に合わせた段階編み靴下では脚の太さに影響されてしまうため、人によっては緩く感じてしまい、ずれ落ちに対する不安感がありましたが、「足なり直角 リブ編み靴下(紳士・えらべる)」ではレッグ部全体に挿入したゴム糸のおかげで、程よい締め付け感を感じていただけます。
他の靴下にはない設計なので、洗濯をして干す時には一度レッグ部分を縦方向に伸ばしてから干すのがポイントです。
これまで靴下のずれ落ちが気になっていた方は、ぜひ一度お試しください。