スリッパの見直し
スリッパをゼロから見直し、「無印良品の定番」として自信をもてる商品にしたいと考えています。
STEP1.プロジェクトの始まり
みなさん、家の中でスリッパを履いていますか?
『スリッパ』ではなく、『ルームシューズ』、『ルームサンダル』といった名前でも売られていて、いろいろなお店でよく見かけます。
今では様々な形、素材、デザインのスリッパがあり、季節や気分により履き分けたりすることもできます。
今日では「スリッパ=家の中で履く履物」ということが、常識となっています。
家の中で履く履物『スリッパ』、実は日本が発祥ということをご存知でしょうか?
スリッパが誕生したのは、明治時代の初めと言われています。
開国により、多くの外国人が日本を訪れるようになりました。
外国人は室内で靴を脱ぐ習慣がないため、土足で室内に入り込み、室内を汚してしまったり、畳を痛めてしまったりといった問題が絶えなかったようです。
そこで誕生したのが、『スリッパ』です。
東京の仕立て職人徳野利三郎が、靴のまま履ける履物『スリッパ』を考案したのが原型と言われています。(※)
※参考文献:武知邦博.スリッパ.かわとはきもの.2003,No.126
時代は進み、履き方は変わってきましたが、基本の形はあまり変わっていないそうです。
現代でも使われていることから、この形がスリッパとして一番適しているということがうかがえます。
スリッパの基本形は同じでも、今日ではいろいろな形や素材のスリッパがあります。
無印良品でも、定番から季節ものまでさまざまなスリッパを販売しています。
無印良品のスリッパ
ソフトスリッパ、インソールクッションスリッパは、生地違いのものもあり、定番商品となっています。
また夏には、鼻緒のスリッパや、い草・麻など涼しさを感じられる素材を使ったスリッパ、冬になるとあたたかいウールの素材を使ったスリッパや、足全体を覆ったブーツ型のスリッパがよく履かれています。
無印良品の定番として愛用されているソフトスリッパ。
無印良品の定番として販売されているソフトスリッパですが、スリッパの担当として「お客さまはこれで満足しているのだろうか?」、「無印良品のスリッパは、これで本当にいいのだろうか?」、「果たしてこれが無印良品のスリッパだ!と自信をもって言えるのだろうか?」という気持ちが、ずっと心の片隅にありました。
そこでスリッパをゼロから見直し、「無印良品の定番」として自信をもてる商品にしたいと考え、このプロジェクトが始まりました。
私たちは基本に戻り、まずは市場で売られているスリッパを調べてみることにしました。
次回はそのことについてご紹介します。
STEP2.スリッパについてのアンケート
スリッパは、百貨店をはじめ生活雑貨専門店、靴専門店、大型総合スーパー、ホームセンターなど、さまざまなところで売っています。
自分用だったり、来客用だったり、用途もさまざまです。
そこで世の中にはどのようなスリッパがあるのか、調べてみました。
まずスリッパの形です。
いくつかの例を紹介します。
下の図のように、スリッパの基本形はあまり変わらないのですが、作り方、かかとの有無などにより、いくつかに分けることができます。
外縫いタイプ、つり込みタイプ、チャールストン、ルームシューズ、バブーシュなど。
そしてその中でもさらにつま先が開いた前開きのもの、鼻緒タイプのもの、ブーツタイプのものなど。
スリッパ
外縫いタイプ
-
-
-
吊り込みタイプ
-
-
チャールストン
-
ルームシューズ(かかとが覆われているもの)
-
-
バブーシュ
-
機能性があるもの
-
-
-
吊り込みタイプ
-
-
チャールストン
-
ルームシューズ(かかとが覆われているもの)
-
-
バブーシュ
-
機能性があるもの
-
-
-
チャールストン
-
ルームシューズ(かかとが覆われているもの)
-
-
バブーシュ
-
機能性があるもの
-
-
-
ルームシューズ(かかとが覆われているもの)
-
-
バブーシュ
-
機能性があるもの
-
-
-
バブーシュ
-
機能性があるもの
-
-
-
機能性があるもの
-
-
-
スリッパの形を調べていると、ふと疑問がわきました。
どんな形のスリッパが好まれているのだろう?
スリッパを買うとき、どんなことを重視して買うんだろう?
そこで私たちは一般の方々に、アンケートで聞いてみることにしました。
その結果をご紹介します。
- 実施期間:
- 2018年6月
- 調査方法:
- インターネットアンケート
- 対象者:
- 全国20~60代の男女 約10,000名
- (調査協力:クロス・マーケティング)
アンケート結果
Q1.ご自宅の中で、スリッパなど履き物を使用していますか?(複数回答可)
約半数の方がスリッパを使用しているということが分かりました。
Q2.1日のうちで、どの程度スリッパを履いていますか?(単一回答)
6割の人は、スリッパを常に履いているんですね。
Q3.主に履いているスリッパはどのような種類ですか?(単一回答)
※各スリッパ、前開きスリッパなど形違いのものも含まれます
スリッパの定番である「つり込みタイプ」と「外縫いタイプ」で約65%を占めています。
Q4.スリッパを購入する際にどのような点を重視しますか?(複数回答可)
「履き心地が良い」と回答した人が約半数います。
その次に見た目に関する項目が続きますが、使用感についても重視していることが分かります。
アンケートの結果から、約半数の人がスリッパを履いていること、定番の形がよく履かれていること、スリッパの見た目はもちろん、履き心地、使用感を重視しているということが分かりました。
アンケートにご協力いただきましたみなさん、ありがとうございました。
またスリッパが日本発祥ということはSTEP1でお伝えしましたが、海外の方々は、スリッパを履いているのでしょうか?
素朴な疑問がわきました。
そこで私たちは、海外の方々にもアンケートで聞いてみることにしました。
STEP3.各国のスリッパ事情
日本発祥のスリッパ、海外の方々は履いているのでしょうか?
私たちは海外10か国で、スリッパの使用についてアンケートを行いました。
- 実施期間:
- 2018年7月
- 調査方法:
- インターネットアンケート
- 対象国:
- 中国・香港・韓国・台湾・タイ・インド・アメリカ・イギリス・フランス・ドイツ
- 対象者:
- 上記10か国 20~60代男女
Q1.ご自宅の中で、スリッパなど履き物を使用していますか?(複数回答可)
中国はスリッパの使用率が90%を超えています。
この数字は驚きですね。
中国ではスリッパを履くことが当たり前になっているようですね。
一方、日本でのスリッパの使用率は半数に満たないという結果でした。日本では畳の部屋があったり、生活様式の違いによるものが大きいと推測されます。
中国以外でも、香港、韓国、台湾は70%を超えており、アジア圏は使用率が高いことがうかがえます。
アメリカやヨーロッパはどうでしょうか?
アメリカは65%、アメリカも比較的高いですね。
ヨーロッパは、イギリス、フランスは70%以上、ドイツは49%と、国によって異なる結果となっています。
各国の文化や習慣に大きく影響を受けていそうです。
Q2.あなたがご自宅の中でスリッパを使用している理由をおしえてください。(複数回答可)
アジア圏は「素足は嫌だから」、「足に床の汚れがつかないから」が多くを占めています。
アメリカは「足が冷えるから」、「素足は嫌だから」、ヨーロッパは「家の中で靴を履きたくないから」という理由が多くなっています。
またアメリカでも、「家の中で靴を履きたくないから」は3番目に多く、欧米でも家の中で靴を履くことが少なくなっていることが推測されます。
Q1のスリッパの使用率の多さも、うなずける結果となっていますね。
Q3.あなたは1日の中で、どの程度スリッパを使用していますか?(単一回答)
「常に履いている」割合が最も高いのは香港、一方で最も低いのは韓国という結果になりました。
全体的には「常に履いている」、「時々履いている」の割合がとても高く、どの国も2つを合わせると90%以上になります。
家の中でスリッパを履いて過ごす時間が多いことがうかがえます。
これらの結果から、スリッパは、海外でも高い使用率であることが分かりました。
またスリッパを使用する理由は、各国それぞれの文化・生活様式によって背景は異なるものの、全体的には同じような結果となりました。
STEP2で、日本ではスリッパを履く人のうち、6割の人がスリッパを常に履いているということ、スリッパの重視する点として、見た目はもちろん、履き心地や使用感が挙げられていることをご紹介しました。
家の中で常に履かれているスリッパ、履いている人たちにとって、履き心地が良く、歩きやすいと思われるスリッパであってほしい、そんな想いでスリッパを作っていこうと決意しました。
STEP4.スリッパを評価する
無印良品のソフトスリッパは、ソフトで軽いクッション材を使っていて、楽な履き心地のスリッパになっています。お客さまからも「ふかふかのはきごこち」、「インソールがクッションのようにやわらかい」といった声をいただいています。
一方で、「クッション性がありすぎてフィット感があまりない」、「インソールがやわらかいので少し不安定さを感じた」との声もありました。
開発担当者たちで履いたときも、「やわらかくてリラックスはできるんだけど、やわらかすぎて歩くときにスリッパが脱げやすい」、「脱げやすいと階段とか段差が怖いよね」といった声が上がりました。
ソフトスリッパのやわらかさは長所である一方で、やわらかいので足に対する追従性が乏しく、歩きにくくなっているようです。
スリッパを履いているときの行動として、座っていることより立っていたり、歩いていることの方が多く、またスリッパを履く人のうち6割の人が常にスリッパを履いていること、スリッパの重視する点として履き心地や使用感を挙げていることから、歩きやすさ、履き心地について見直していくことにしました。
まずソフトスリッパの形状や履き心地などを検証し、ソフトスリッパの問題点を洗い出してみることにしました。
さまざまな測定を行いましたので、その一部をご紹介します。
①モーションキャプチャ
ゲームや映画などのキャラクターが、本物の人のように滑らかな動きをするのを見たことがあるでしょうか? これらはモーションキャプチャで記録された、実際の人や物の動きを基にしてつくられています。
モーションキャプチャとは、人や物体の動きをデジタル的に記録する技術で、3次元動作を測定します。
私たちは、スリッパを履いて歩くときのスリッパと身体の動きについて測定を行いました。
測定風景
(測定協力:株式会社テラバイト)
スリッパとスリッパを履いて歩く人に、上の写真のようにマーカをつけ、グレーの板の上を歩きます。
スリッパや人につけたマーカを、周りの6台のカメラでとらえ、スリッパや人の動きを可視化することができます。
私たちが特に注視したのはスリッパと足の動きで、スリッパの中で足がずれることをとらえることができました。
②3Dスキャナー
立体物の形状をスキャンして、3Dデータ化するものです。
スリッパの凹凸を感知し、3次元の座標データを取得します。座標データから変換が行われ、3Dデータとなります。
私たちは、スリッパの形状、甲(アッパー)の取付位置・高さ、足型を入れたときのスリッパの履き口の形状などの確認を行いました。
この結果から、アッパー内部の大きさや足型とスリッパの接地点などが分かりました。
ソフトスリッパはやわらかいため、足型を入れるときと入れないときとで形が変わること、足を入れるとスリッパとの間に隙間ができ、それがスリッパの中で足がずれる要因になっていそうです。
③シート型圧力測定機
平面にかかる圧力分布の状態、重心位置などを可視化できます。
私たちは、スリッパを履いた状態でシートの上に立ち、足裏の圧力分布、重心位置を測定し、身体のバランス、安定性の確認を行いました。
測定風景
下の写真は、ソフトスリッパを履いて測定したときの結果です。
色が赤に近いほど圧力が高く、青に近いほど圧力が低いことを表しています。
ソフトスリッパでは、かかとが赤く、かかとに圧力がかかっていることが分かります。
これは、体の重心が後ろにきていることを表しています。
これらの測定から、以下のことが分かりました。
・歩行中にスリッパの中で足がずれてしまう
・ソフトスリッパはやわらかく、足とスリッパとの間に隙間ができてしまう
・重心が後ろにいってしまい安定した姿勢になっていない
どうやら、これらが歩きにくさの要因になっていそうです。
そこで私たちは、足のずれや重心位置を改善するために、さまざまな試作に取り組むことにしました。
STEP5.試作を重ねて
私たちは、足がスリッパの中でずれにくく、安定した姿勢になるようなスリッパをつくりたいと思い、まずはどこを見直したらよいのか検討しました。
私たちは以下のように考え、これらを検証することにしました。
<検証内容>
①足がずれにくくするには?
ソフトスリッパは、つり込みタイプのスリッパです。
スリッパのかかと側が包まれているわけではないので、足がずれやすくなっているようです。
私たちは、スリッパのどこの部位がずれに起因しているのか、以下の項目を検討しました。
A:アッパー長さの検討
E:アッパーの取付位置の検討
F:インソール形状の検討
②安定した姿勢になるには?
ソフトスリッパのインソールは2層になっています。
ソフトスリッパの柔らかさは、インソールのスポンジ層からくるものですが、やわらかすぎて安定感がなかったり、へたりやすかったりしていました。
そこで、以下の項目を検討しました。
私たちはそれぞれの条件を変え、さまざまな組み合わせで試作品をつくりました。
つくったスリッパを履いてみて、以下の項目がそれぞれに影響を与えることが分かりました。
<検証結果>
検証結果から、最良な組み合わせのスリッパをいくつか試作し、担当者で履き比べを行いました。どのスリッパも、「フィットしていて足がずれにくくなっている。」、「スリッパが足についてくる。」といった意見が出ました。
私たちが自信をもって選んだ数足のスリッパですが、どのスリッパがお客様にとっても最適なスリッパなのでしょうか?
そこで、スリッパを一般の方に履いて評価してもらうホームユーステストを行い、検証することにしました。
ホームユーステストとは?
主に一般消費者の方に、新製品または改良品(試作品)や既に発売している自社製品と競合製品などを、家庭で実際に利用してもらい、評価をしてもらう製品評価の手法です。
STEP6.試作品を履く
私たちは社内の人達にも履いてもらい、数ある試作品の中から2足のスリッパを選びました。
2足まで絞ったのはいいものの、人によってどちらのスリッパが良いのか意見が分かれました。人の足の形はそれぞれで、全員が同じ意見にならないのは当たり前のことです。
私たちはこの中から1つに絞り込むために、一般の方に意見を伺うことにしました。一般の方に意見を伺う場合、様々な方法がありますが、今回はホームユーステストを行うことにしました。
事前にアンケートにご協力いただいた約10,000名から、ホームユーステストにご協力いただける方を募集し、実際に生活の中で試していただくことにしました。
試していただくスリッパは、全部で3種類です。私たちが選んだ2種類の試作品と、今回の試作品が現行のソフトスリッパより良いものになっているかを確認するために、現行のソフトスリッパもエントリーしました。
- 実施期間:
- 2019年12月
- 対象者(モニター):
- 20~50代の男女88名
- 対象条件:
- ・普段スリッパを使用する人
- ・1日のうちスリッパを履いている時間が長い人
- ・スリッパのサイズにあった人
- Mサイズ23.5~25.0cm/Lサイズ25.0~26.5cm
- 試用期間:
- 各スリッパ2日ずつ
テストサンプル:
<アンケート①:履いた時の使用感>
ホームユーステストのアンケートは、スリッパを履いた時の使用感を、履いた直後、歩行時、階段昇降時に分けて、23個の項目について評価してもらいました。
評価は、5段階評価としました。
5:とてもそう思う
4:ややそう思う
3:どちらともいえない
2:あまりそう思わない
1:全くそう思わない
聴取項目です。
-
履いた直後
・足が入れやすい
・インソールが厚い
・インソールの厚さがちょうどいい
・インソールが柔らかい
・インソールの柔らかさがちょうどいい
・フィット感がある
・リラックス感がある
・安定感がある
・履き心地が良い
・使いたい -
歩行時
・歩きやすい
・脱げにくい
・ずれにくい
・滑りにくい
・疲れにくい
・フィット感がある
・安定感がある
・履き心地が良い
・使いたい -
階段昇降時
・歩きやすい
・脱げにくい
・ずれにくい
・滑りにくい
結果は、各項目ごとにモニター88名の回答の平均をとりました。
平均値が高い方が、より「そう思う」ということになります。
下のグラフは、統計的手法を用いて分析を行った結果、有意差が出た項目について掲載しています。「有意差」とは、統計学において、確かに差があって、それは偶然起こったものではない差のことを言います。
例えば下のグラフで説明すると、「足が入れやすい」については以下のことが言えます。
試作品1と試作品2との間に有意差がある = 試作品1と試作品2では、足入れのしやすさについて確かに差がある = 試作品1の方が足入れがしやすい
有意水準:**p<0.01 *p<0.05
統計処理:二元配置分散分析
有意差が得られた場合には多重比較(Bonferroni法)を実施
・「足が入れやすい」は、試作品2に比べて試作品1が有意に高い
・「フィット感がある(履いた直後)」は、ソフトスリッパに比べて試作品2の方が有意に高い
・「使いたい(履いた直後)」は、ソフトスリッパに比べて試作品2の方が有意に高い
・「脱げにくい(歩行時)」は、ソフトスリッパ、試作品1に比べて試作品2の方が有意に高い
・「フィット感がある(歩行時)」は、ソフトスリッパに比べて試作品2の方が有意に高い
私たちが改善ポイントに挙げていた「フィット感がある」では、【ソフトスリッパ<試作品1<試作品2】という結果になっていて、改善できているようです。
<アンケート②:2種類のスリッパの比較>
また試作品1と試作品2で比較してみました。
試作品1と試作品2で、各項目について最も当てはまるものを選んでください。(単一回答)
「脱げにくい」、「ずれにくい」、「フィット感がある」、「安定感がある」、「履き心地が良い」は試作品2の方が高い結果を示しています。
私たちが改善ポイントに挙げていた、「ずれにくい」、「フィット感がある」、「安定感がある」という点では、【試作品1<試作品2】という結果になっています。
これらの結果から、全体的に試作品2の方が高評価を得ています。
試作品1よりは試作品2の方が良さそうです。
また現行のソフトスリッパと比べても、明らかに試作品の方が私たちが理想とするスリッパに近づいているようです。
ただ1つだけ、試作品2より試作品1の方が良い項目がありました。
それは「足が入れやすい」です。
どうやら試作品1の方が足入れはしやすいようです。
私たちはソフトスリッパの問題点を改善したスリッパをつくることができましたが、さらにより良いスリッパにするために、足入れのしやすさの改善を検討することにしました。
STEP7.できました
これまでの検討で、私たちが改善ポイントに挙げていた「ずれにくい」、「フィット感がある」、「安定感がある」という点について、改善したスリッパをつくることができました。
さらに自信をもってお客様におすすめできるスリッパにするために、足入れのしやすさを改善することにしました。足を入れやすくするために、履き口長さ、アッパーの取付位置の調整をしてみました。
履き口長さ、アッパーの取付位置を調整した7種類のスリッパを試作し、スリッパ担当で履き比べを行いました。その中から、履いた感じ、歩きやすさなど、これ! と言える1足がありました。
このスリッパが、一般の方にも満足していただけるものなのかを検証するために、再度ホームユーステストを行いました。
今回試していただくスリッパは、試作品と現行のソフトスリッパの2種類です。
- 実施期間:
- 2020年4月
- 対象者(モニター):
- 20~50代の男女96名
- 対象条件:
- ・普段スリッパを使用する人
- ・1日のうちスリッパを履いている時間が長い人
- ・スリッパのサイズにあった人
- Sサイズ22.0~23.5cm/Mサイズ23.5~25.0cm/Lサイズ25.0~26.5cm
- 試用期間:
- 各スリッパ2日ずつ
テストサンプル:
(調査協力:クロス・マーケティング)
<アンケート①:履いた時の使用感>
ホームユーステストのアンケートは、STEP6と同じで、スリッパを履いた時の使用感を、履いた直後、歩行時、階段昇降時に分けて、各項目について5段階評価をしてもらいました。
-
履いた直後
・足が入れやすい
・インソールが厚い
・インソールの厚さがちょうどいい
・インソールが柔らかい
・インソールの柔らかさがちょうどいい
・フィット感がある
・リラックス感がある
・安定感がある
・履き心地が良い
・使いたい -
歩行時
・歩きやすい
・疲れにくい
・脱げにくい
・ずれにくい
・フィット感がある
・足についてくる
・滑りにくい
・安定感がある
・履き心地が良い
・使いたい -
階段昇降時
・歩きやすい
・脱げにくい
・ずれにくい
・足についてくる
・滑りにくい
結果は、各項目ごとにモニター96名の回答の平均をとりました。
平均値が高い方が、より「そう思う」ということになります。
有意水準:**p<0.01 *p<0.05
統計処理:二元配置分散分析
有意差が得られた場合には多重比較(Bonferroni法)を実施
・「インソールが柔らかい」は、試作品に比べてソフトスリッパの方が有意に高い
・その他の項目は、ソフトスリッパに比べて試作品の方が有意に高い
この結果を見ると、「インソールが柔らかい」のはソフトスリッパの方です。STEP4でお伝えしましたが、ソフトスリッパの柔らかさは、長所である一方で、やわらかいので足に対する追従性が乏しく、歩きにくくなっていました。
試作品は適度な硬さでずれにくく、フィット感、安定感を実現したスリッパになっていることが分かります。
<アンケート②:2種類のスリッパの比較>
試作品と現行のソフトスリッパを比較してみました。
試作品とソフトスリッパで、各項目について最も当てはまるものを選んでください。(単一回答)
・「歩きやすい」、「脱げにくい」、「ずれにくい」、「フィット感がある」、「足についてくる」、「安定感がある」、「履き心地が良い」、「使いたい」は試作品の方が高い結果を示している
私たちが改善ポイントに挙げていた、「ずれにくい」、「フィット感がある」、「安定感がある」という点では、【ソフトスリッパ<試作品】という結果になっています。
また、STEP6の試作品から、「足入れのしやすさ」について改善した今回の試作品ですが、アンケート②では、ソフトスリッパの方が良い結果が得られました。一方、アンケート①では、有意差は認められず、ほぼ同等の結果となりました。
アンケート①は、履いた直後に聞いたもの、アンケート②は、2日間履いた後に聞いたものであり、アンケートの回答にタイムラグがあります。
「足入れのしやすさ」というのは、履いた直後に一番感じることができるため、履いた直後に聞いたアンケート①の結果を見ると、課題であった「足入れのしやすさ」は、現行のソフトスリッパと同等まで改善されたことが分かります。
アンケート①「足が入れやすい」の結果
また、シート型圧力測定機による、身体のバランス、安定性の確認を行いました。
ソフトスリッパではかかとが赤くなっており、後ろ側に圧力がかかっています。
一方試作品は、つま先側とかかと側、同じくらいの圧力がかかっており、安定した姿勢になっていることが分かります。
ここで、これまでのおさらいをしましょう。
私たちが改善ポイントとして挙げていたことは2点でした。
・足がずれにくくするには?
→スリッパが足にフィットしていない?
・安定した姿勢になるには?
私たちはSTEP5で、スリッパのどこの部位がそれらに影響を与えるのか、検証を行ってきました。そこで以下のことが分かりました。
・足のずれ:アッパーの取付位置、インソール形状
・安定した姿勢:インソールの素材、積層数、積層の組み合わせ、各層の形状
さまざまなスリッパを試作しては履いてを繰り返し、最適な組み合わせを見つけました。
それでは、ここで改良ポイントをご紹介します。
このような改良を行い、改良の相乗効果により、お客様に満足いただけるスリッパが完成しました。これが「無印良品のスリッパ」と、私たちも自信をもって言えるスリッパになりました。
次回はいよいよ最終回です。発売を目前に、このスリッパの商品情報をお知らせします。
STEP8.発売のお知らせ
2018年に始まったスリッパのプロジェクトですが、たくさんの方々にご協力いただき、いよいよ発売です。
たくさんの試作品を作り、履き比べを繰り返しました。
また2回のホームユーステストを行い、一般の方々にも協力していただき、さらにより良いスリッパになるように検討を重ねました。
足がずれにくく、安定した姿勢になるように、アッパーの形状とインソールを見直しました。「足にフィットするスリッパ」です。
足にフィットするから、足がずれにくく、インソールを変えたことで安定した姿勢になり、歩きやすいスリッパが完成しました。インソールには、体圧分散性が高い素材を使っているのも特徴の一つです。
私たちが自信をもっておすすめできるスリッパです。
商品名 | 綿天竺・落ちワタ入り 足にフィットするスリッパ |
麻綾織 足にフィットするスリッパ |
綿フランネル 足にフィットするスリッパ |
---|---|---|---|
商品画像 | |||
サイズ ※1 |
S/M/L/XL | S/M/L/XL | S/M/L/XL |
価格 (税込) |
790円 | 790円 | 790円 |
色 | 杢グレーボーダー 杢ネイビーボーダー |
生成 チャコールグレー |
チャコールチェック ブラウンチェック |
発売日 | 2020年11月5日 |
2020年11月5日 |
2020年10月8日 |
※1 サイズ
S(22~23.5cm)/M(23.5~25cm)/L(25~26.5cm)/XL(26.5~28cm)
コロナ禍で、自宅で過ごす時間が増えた方も多いと思います。
家の中での生活を快適に過ごすためのアイテムの一つとして、足にフィットするスリッパを使ってみてはいかがでしょうか?
最後になりましたが、アンケート、ホームユーステストにご協力いただきました皆様、ありがとうございました。