無印良品のUD活動 -多様性とヒント-
ユニバーサルデザインについて、みなさんと一緒に考えていきます。
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生活雑貨
STEP1.無印良品のUD活動
─多様性とヒント─
無印良品では社内の有志の開発担当者を中心に、2014年の秋頃よりユニバーサルデザイン(UD)の勉強会を開始しました。
ユニバーサルデザインとは、年齢や性別、身体的な違いで生まれる差を問わずに、できるだけ多くの人が利用することができるデザインです。1985年頃からアメリカで始まり、日本でも多くの商品が生まれ、様々な施設で採用されています。
最近では、年齢や性別、身体的な違いだけでなく、観光で訪れる人(外国人)や妊婦など配慮すべき人々の多様性や広がりが感じられます。
無印良品では海外の店舗も増え、今後もより多くのお客様と出会う中で、 ・どのようにユニバーサルデザインと向き合うのか ・これまで培われたユニバーサルデザインにヒントはあるのか ・多様性の中に良いデザインのヒントはあるのか などを、このUD活動の中でお客様と考えていきたいと思います。
このサイトではユニバーサルデザインについて、大きく分けて、INPUT(調査や研究などの情報収集)とOUTPUT(商品開発やお知らせなど)の2つの軸で、多くのお客様と情報を共有することを目的に、商品の発売やイベントに合わせて報告をしていきます。
- 外部機関との取り組み ・交流会、見学会の報告など 調査(研究) ・店舗調査の結果報告 ・アンケート結果報告など
- 商品、開発について ・プロジェクトを通じて商品化されたものの紹介 ・これまでに発売された商品の紹介など
次回は2015年12月にMUJI passportで行った「日常の色や表示についてのアンケート」の結果について報告します。
STEP2.日常の色や表示についてのアンケート結果報告
私たちは皆同じように色を見ているのでしょうか?
自分が想像している「青」と言っても隣の人が同じ色を想像しているのでしょうか? 年齢、性別、国籍などの違いによって、もしかすると、その時の気分や体調によっても色の見え方は変わってくるのかもしれません。
そこで今回、無印良品の商品で使われている表示や識別の色について、どのようにお客様が感じられているのか、意図した通りに見ていただけているかどうかについてのアンケートを行いました。アンケートの報告に加え、多くのコメントを頂きましたので合わせてご紹介します。
- 実施期間:
- 2015年11月30日~12月7日
- 回答方法:
- MUJI passport
- 回答者数:
- 34,438人
問1 日常で色の区別がつきにくいと感じたことがありますか?(必須回答)
問2 服の色の組合せがおかしいと言われたことがありますか?(必須回答)
いくら仲が良くても直接言いにくいかもしれません。それぞれのセンスのことはさておき、自分で考えている色や色の組み合わせが、必ずしも皆んなが同じように見えていないのかもしれません。
問3 無印良品の商品で色を間違えて購入してしまったことはありますか?
あるとご回答頂いた中で、特に多かったものや何が原因で間違いが起きやすいかをまとめました。
- ・黒とネイビー、黒と灰色(グレー)の見間違い細い線だと余計に分かりづらくなる。
- ・WEBでの色の見え方実物とWEBページでの色の差を感じる。
- ・光による色の見え方自然光と照明で色の差を感じる。
店舗での色の見え方、WEBページでの色の見え方、自然光での色の見え方に違いが生じるということを、こちらの結果でより感じることができました。
問4 無印良品の商品で操作部の表示が見えづらい、分かりづらいと感じたことはありますか?
操作部の表示ということで、かなり限定された質問だったこともあり、分かりづらいという回答は少ない印象ですが、「ある」とお答え頂いた中で多かったものは家電製品のスイッチやボタン類、その中でも背面や底面にスイッチがあるものが分かりづらいというコメントを頂きました。
問5 無印良品の商品で注意表記が見えづらいと感じたことはありますか?
「ある」とご回答頂いた中で特に多かったのは商品の裏側に記載されているような成分表示や原材料表示などでした。
また、購入時だけでなく、ご使用時にもタグなどの表示を頻繁に確認されているということも分かりました。
- ・色表記後々、黒、ネイビーなどが分からなくなる。
- ・婦人と紳士洗濯物した際に見分けがつきにくくなることがある。
- ・素材についてストレッチ素材、撥水素材、炭酸飲料などパッと見では分からない。
- ・食品(飲料)振ってくださいを開封後に知る。
一方、表示が多すぎるのも困るといったご意見も多く頂きました。より端的に、より分かりやすく表示方法を考える必要がありそうです。
頂いたご意見の中で既に商品化されているものをご紹介します。
・インナーのタグでの素材表記
あたたかさや涼しさを感じるインナーは見た目だけでは分かりづらいので、タグ内に表記をしています。
- コットンウールストレッチあったか
Vネック長袖シャツ
問6 無印良品で使用されている色や表示について何かご意見があればお書きください。
最後に任意回答でコメントを頂いた中から、一部抜粋してご紹介します。
- 環境での見え方の差について
- ・色弱だと店頭の照明条件によってはパッと見て色がはっきりわからないことがある。
- ・ビニールに包まれている商品は照明の反射などで色がわかりにくい場合が多い。
- 商品のサイズ、セットについて
- ・布団のタグにサイズ表記がしてあるといい。カバーを買い換えるのにサイズを忘れている。
- ・商品名に似ているものが多く、違いが分かりづらい。
- ・靴下の左右がバラバラになると分かりにくい。
- 商品の色、識別について
- ・ボールペンの替え芯が分かりづらい。
- 表示について
- ・UD視点で見ると無印の商品は「見えにくい」かもしれないが、単に文字を太く、大きく、色分けなどをして、無印のシンプルなデザインが崩れるのは嫌だ。
- ・化粧水をつける時はいつもコンタクトや眼鏡をつけない裸眼の状態なので、近視だとよけいにわかりづらい。
改善が必要と感じるコメントがある中で、既存の商品で良いコメントを頂けたものもありましたので、紹介させていただきます。
・こどものパジャマ
「まえ」タグは、分かりやすい。
・化粧品のポンプヘッド
カットしなくてはと定規を用意しようと思ったら台紙にメモリが印刷されていて驚き、とても嬉しかった。
- スプレーヘッド・トリガータイプ化粧水用
スプレーヘッド 化粧水用
ポンプヘッド 化粧水・乳液用
・白黒反転ステーショナリー
白黒反転の商品は他では見かけない貴重なもの、見やすい。
- 両面目盛の定規 15cm
- 電卓 12桁・黒
アンケートを終えて
短い期間でしたが、本当に多くのご回答を頂き、ありがとうございました。
アンケート結果のグラフだけを見ると、あまりネガティブな印象は無いようにも見えますが、自由回答の中には今後参考にしていきたいポイントが多くあると感じました。特にサイズ、色などの識別表記は購入時だけではなく購入後にも必要とされるのだということがアンケートを通じてより明らかになりました。
そして無印良品としては様々な環境下、様々な商品が並ぶ中で必要な情報を端的にわかりやすく表示するのはもちろん、より※カラーユニバーサルデザインについて考える必要があるのではないかと感じています。
※カラーユニバーサルデザイン
色覚タイプの違いを問わず、より多くの人に利用しやすい製品や施設・建築物、環境、サービス、情報を提供するという考え方を「カラーユニバーサルデザイン(略称CUD」と言います。
(NPO 法人 カラーユニバーサルデザイン機構様HP より)
次回は、昨年NPO 法人カラーユニバーサルデザイン機構様と無印良品有楽町店で行った、CUD 店舗ラウンドについてご紹介します。
STEP3.カラーユニバーサルデザインとは?
カラーユニバーサルデザイン(CUD)という言葉をご存知でしょうか。
CUDとは色覚タイプの違いを問わず、より多くの人に利用しやすい製品や施設・建築物、環境、サービス、情報を提供するという考え方です。
「色弱者」は、色覚異常・色盲・色弱・色覚障害・色覚特性などとも呼ばれており、日本では、男性の約20人に1人、女性の約500人に1人、日本全体では320万人以上いるとされています。これに後天的な色覚の変化を合わせると約500万人という数になります。AB型の男性の数とほぼ同じとも言われています。
(NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構様HPより一部抜粋)
- C型
- P型
- D型
色覚のタイプは大きくC型(一般色覚)、P型、D型に分けられ、上の図のように色覚タイプによって色の見え方に違いがあります。
C型(一般色覚):日本人男性の約95%,女性の99%以上を占めます。
P型:日本人男性の約1.5%
D型:日本人男性の約3.5%
CUDラウンド
UD活動のひとつとして、昨年無印良品有楽町店で「CUDラウンド」と称して、活動メンバーを中心にNPO法人カラーユニバーサルデザイン機構様(以下略CUDO様)のご協力のもと、店舗環境や商品がどのように見えているのかスマートフォンアプリ(※1)や専用の眼鏡(※2)を使い、様々な色覚を体験してきました。
売り場の様子
CUDの視点で使いやすいもの
CUDO様とのCUDラウンドを通じて様々な発見があり、色弱の方でも分かりやすい、使いやすい商品がいくつかありましたので、ご紹介します。
商品ではありませんが、衣類で使用されているサイズ表記のシールは白と黒が印刷されています。明るい色、暗い色それぞれに合わせてシールを作るのではなく、このシールひとつで各色に対応することができます。
今回の店舗ラウンドを通じて、実際に違った色の見え方の体験をしたり、色弱の方と一緒に現場をまわり、直接お話しをお伺いできたことで、今後につながる新しい発見やヒントがあったのではないかと思います。また機会があれば普段とは違った視点で体験できるワークショップなどを開催してみたいと思います。
新規商品のお知らせ
CUDの視点を取り入れて開発した商品が発売されます。
照度の低い浴室や、眼鏡を外したり、洗髪中で目が開けにくい状態でもどのボトルに何が入っているかわかりやすくなります。色での識別に加え、先端の凸凹の溝に沿ってカットして長さを変えることで触って識別することもできます。赤と青の彩度を少し上げることで一般色覚者と色弱者共に識別がしやすくなりました。
STEP4.新規商品発売のお知らせ
白黒反転させたアナログ目覚まし時計が限定で登場です。
この目覚まし時計はホワイトのタイプと比較すると、白と黒の色が反転されています。無印良品のUD活動をしていく中で、黒い紙に白く文字が印刷されたカレンダーと出会いました。これはロービジョン(弱視)の方には白い紙に黒で印刷されたものは光を反射して眩しくなってしまうのを、白黒反転させることで見やすくなるというものでした。この手法を参考にして、より多くの方に見やすい新しいアナログ目覚まし時計のブラックができました。
無印良品ではこの目覚まし時計の他に、白黒反転の商品を販売しています。
次回は社内で行ったインスタントシニア体験についてご紹介します。
STEP5.インスタントシニア体験レポート
2016年12月に社内の開発担当者を中心に、ウエルエージング総合研究所の合木さんをインストラクターにお迎えし、インスタントシニア体験を行いました。まずインスタントシニアというのは、白内障を体験できる特殊なゴーグルなどの器具を装着して一時的に高齢者になり、高齢化に伴う身体機能の変化によって及ぼされる影響を体験するプログラムです。このプログラムには、体験だけでは分かりにくい高齢者の側面についての解説や体験後のまとめなども含まれています。
高齢化社会が進む中、商品開発を行っていく上でも高齢に伴う身体の変化について理解を深めることが必要であるのはもちろん、同時に高齢者の視点から無印良品を観察することで何か新しい開発やサービスなどにつながるのではないかと考え、今回はインスタントシニアの体験会を行いました。
体験内容の紹介
体験プログラムの内容をご紹介します。当日は器具を装着し主に高齢者の日常生活編と商品の確認編の二つの体験をメインに合計2時間行いました。
写真と一緒に当日の様子をご紹介します。
- 1. オリエンテーション
- 2. 器具の装着
- 3. 課題の体験
- a.日常生活編
- b.商品の確認編
- 4. 器具の取り外し
- 5. アンケート記入
- 6. 体験の共有化、討議
1. オリエンテーション(30分)
合木さんの説明やDVDの鑑賞を行い、高齢者についての理解を深めていきます。
合わせて体験の目的を明確にしていきます。
2. 器具の装着(10分)
イラストの通りに器具を取り付けます。
インスタントシニアの装身具- 1.耳栓
- 耳栓を装着することで聴覚の変化を体験します。
- 2.白内障用ゴーグル
- 視覚の変化や視野狭窄を体験するゴーグルです。
- 3.両腕関節サポーター
- 両腕の関節にサポーターを装着することで関節が曲がりにくくなり、背中に手を回すなどの動作も不自由になります。
- 4.利き手首おもり
- 利き腕手首におもりを装着することで、筋力の低下によって手を上げるのが大変になってくることを体験します。
- 5.ゴム手袋
- 薄いゴム手袋を2枚ずつ着け、両手の指を2本ずつテープでしばって、触覚の低下や指先が不器用になった状態を体験します。
- 6.利き足膝
- 利き足のひざにサポーターを装着して、関節が曲がりにくくなった状態を体験します。
- 7.左右違った足首おもり
- 足首に左右違った重さのおもりを装着し、平衡感覚の変化を体験します。
- 8.つえ
- 身体をあずける便利なつえも、置き場所がないと倒してしまい、拾うのも大変です。
- 9.ゼッケン
- 体験中であるということをまわりの人に知らせ、体験者の安全を確保します。
器具を取り付けるのも一苦労です。徐々に体が重くなっていきます。
3. 課題の体験(40分)
a.日常生活編
次の項目を行い、高齢者の日常生活を疑似体験しました。
廊下を歩く、トイレに行く、館内表示の確認、階段の昇降、自動販売機で飲み物を買う、椅子に座る、飲み物を飲む、配送伝票の記入、パンフレットを読む
参加者アンケートより
- 廊下は暗くて不安になる。視界が悪い。
- トイレはボタンをしめるのが大変。手すりがないと無理。
- 階段を一段ずつしか降りられない。足を上げるのがつらい。くだりの方が大変。杖なしでは登れない。小さな段差は余計に危ない。
- かがむ作業が大変。かがんで靴紐を結ぶのが難しかった。
- 小銭をポケットから出すのも一苦労。自分で持っているお金がわからない。
ペットボトルの蓋が固い。
b.商品の確認編
実際に無印良品の商品を使って確認を行いました。
商品の表示や使い勝手の確認、商品の組み立て、商品陳列棚の確認
参加者アンケートより
- 値段記載の場所を探してしまう。表示が多いと分かりづらい。
- 商品の見分けが難しくなった。
- ネジがどこにあるのかがわからなくなってしまった。家具の組み立ては細部に目を凝らさないと見えないので、時間がかかって、イライラしてしまった。棚を持ち上げるのも一苦労。
- 割れやすいもの、倒れやすいものはこわい。
- 隣り合っている商品を倒してしまった。
4.器具の取り外し(10分)
5.アンケート記入(10分)
6.体験の共有化、討議(20分)
体験を終えて
今回の体験プログラムを終えて、参加者の多くは視界が悪くなったり思うように体動かなくなることで、身体的な変化を感じていたのはもちろんですが、同時に不安になったりイライラするといった精神的な面での変化があったという意見が多くありました。
今まで普通にできていたことができなくなり不満に感じたり、コミュニケーションが取りにくく孤独感を感じたり、分からないことへの不安を感じたりと当事者の立場になってみないと分からない貴重な体験となりました。
今後も多くのスタッフが体験できる場を作っていき、店舗での開催も進めていきたいと考えています。
体験を通じて多くの方々に使いやすい商品を目指していくのはもちろんですが、今回発見できたことをまた今後の開発やサービスにつなげていきたいと思います。
STEP6.新規商品「歯ブラシ」発売のお知らせ
カラーユニバーサルデザインの視点を取り入れて開発した歯ブラシが発売になりました。
上手な歯みがきのコツは、やさしく丁寧に歯と歯茎の間の歯周ポケットをみがくこと。
無印良品の歯ブラシは、歯周ポケットまできれいにみがけるよう、毛先にこだわった2タイプをつくりました。
やさしい使用感で細かくみがける「極細毛タイプと」、コシがありしっかりみがける「普通毛タイプ」をお好みに合わせてお選びいただけます。
歯のみがき方、歯ブラシの持ち方は人それぞれなので、手になじみやすい形状にしました。
色については、家族で識別しやすい各4色をご用意しました。
以前の商品では色弱者の方に識別しにくかったことから、カラーユニバーサルデザインの視点を取り入れて新たな4色に見直しました。
C型(一般色覚)とP型、D型(CUDアプリを使用した色弱タイプ別)の見え方
「STEP3.カラーユニバーサルデザインとは?」より引用
「色弱者」は、色覚異常・色盲・色弱・色覚障害・色覚特性などとも呼ばれており、日本では、男性の約20人に1人、女性の約500人に1人、日本全体では320万人以上いるとされています。これに後天的な色覚の変化を合わせると約500万人という数になります。AB型の男性の数とほぼ同じとも言われています。
(NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構様HPより一部抜粋)
- C型
- P型
- D型
色覚のタイプは大きくC型(一般色覚)、P型、D型に分けられ、上の図のように色覚タイプによって色の見え方に違いがあります。
C型(一般色覚):日本人男性の約95%,女性の99%以上を占めます。
P型:日本人男性の約1.5%
D型:日本人男性の約3.5%
新商品(歯ブラシ)
新商品(歯ブラシ・極細毛)
旧商品
STEP7.新規商品「識別ラベル」発売のお知らせ
指先だけでも、違いがわかるように、ユニバーサルデザインの考え方を取り入れた識別ラベルが発売になりました。
PET詰替用識別ラベルに、目の不自由な方や視力の弱い方をはじめ、より多くの人が触れた感覚で中身が確認できるように、エンボス加工を施しました。
PET詰替ボトル用・識別ラベルのエンボス加工
小分けボトル用・識別ラベルのエンボス加工
今回識別ラベルを見直すにあたりよりわかりやすくするため、シャンプー、コンディショナー、ボディソープには、日本工業規格(JIS S0021)で規定されている規格を採用しました。
また、日本工業規格でまだ規定されていない商品については、社会福祉法人 視覚障害者支援総合センター(東京都杉並区)に協力をいただき、点字のパターンから識別しやすい形状を選択しました。
できた試作品を視覚に障害のある方に触っていただき、エンボスの形状、深さやラインの幅、点同士の間隔など、細部にわたりアドバイスをいただきました。
- 識別のしやすい形状をアドバイスいただきました
- できあがった試作品を触ってもらいました。
こうした改良を重ね生まれたのが、今回のPET詰替ボトル用識別ラベル、小分けボトル用識別ラベルです。