フットカバーの見直し 1
自信をもってお届けできる商品として、もう一度ゼロから見直していきます。
-
衣服
STEP1開発のきっかけ
みなさんはフットカバーを履いたことがありますか?
フットカバーはつま先と踵のみを覆う形のフットウェアです。
甲の部分が広く開いていているため、靴を履くとフットカバーはほとんど見えないのが特徴です。
男性はデッキシューズやスニーカーに合わせて、女性はパンプスやフラットシューズに合わせて履いている方を多く見かけます。
夏場、一見すると素足に靴を履いているように見えるのですが、フットカバーを履いて靴から見えないように履く靴下です。特に女性の夏のフットウェアとしては定番になってきています。
- パンプスと合わせて
- スニーカーと合わせて
- 革靴と合わせて
- 甲の部分がレースタイプのもの
- デッキシューズと合わせて
- 履くとストラップのところだけが見えるデザイン
- 花柄のフットカバー
- パンプスからストラップ部分だけが見えるデザイン
このフットカバー、広く知られるようになったのはここ5年くらいでしょうか。ビジネスソックスやタイツ、ストッキングと比べると、フットウェアの中では比較的歴史の浅い商品といえそうです。
無印良品では「フットカバー」を約12年前から販売していました。
当時、アイテム数はとても少なかったのですが、次第に種類や色、サイズを増やしてきました。
現在では踵の内側に滑り止めをつけたもの、ストラップやベルトを付けたもの、そして指の部分が5本指や足袋型になった商品などを扱っています。また、綿や麻を使ったものもあれば、ストッキングのようにナイロンを多く使っているものまで素材も様々です。
無印良品のフットカバー
- 滑り止め付き
- ストラップ付き
- ベルト付き
- 5本指
- 足首ベルト付き
- 足袋
無印良品でもフットウェアの1アイテムとしてすっかり定番のフットカバーですが、改良のきっかけは開発担当者の会話の中から生まれました。
「フットカバーはみんな使ってる?」
「うん、でもいつも脱げちゃって。。。」
フットウェアについて話していると、フットカバーは脱げるという経験をしている人が思いのほか多かったのです。
実は私もその1人。
家から出て数歩歩くとスルっと踵から脱げて靴の中でくしゃくしゃに。たいていのフットカバーは歩いているうちに踵から脱げてしまいます。
フットカバーが土踏まずのところに移動したまましばらく歩き、立ち止まって履きなおすものの、またすぐに脱げてしまう。その繰り返し。
フットカバーは脱げてしまうもの
と諦めていました。
- フットカバーが脱げたときの靴の中の様子
- 脱げたフットカバーは、靴の真ん中あたりでくしゃくしゃに
- 脱げるたびに履き直します
「フットカバーと靴の相性にも依るのかな」
「脱げにくいフットカバーもあるよね」
「歩き方のクセによって脱げやすい・脱げにくいがあるのかも」
「フットカバーが踵にひっかかりにくい形の人はずり落ちてしまうんじゃない?」
「フットカバーの素材にも依るのかも」
「脱げにくいように踵にゴムが入っているものもあるけど、脱げない代わりにアキレス腱の辺りが痛くなって・・・」
「階段の上り下りは脱げやすいよね」
と予想以上に盛り上がりました。
足から脱げてしまうことに関して、皆少なからず経験があるようです。
「お客様も同じような悩みを抱えているのかも」、「脱げる不満がなくなればもっと喜んでいただけるに違いない」
自信をもってお届けできる商品として、もう一度ゼロから見直そう。
こうして2013年の秋、フットカバー改良プロジェクトがスタートしました。
今回のプロジェクトでは、女性のお客様を対象に婦人用フットカバーの見直しを始めることにしました。
STEP2世の中のフットカバーってどんなもの?
様々な工夫がされている市販品
改良プロジェクトがスタートして間もなく、市販されているフットカバーにはどんな工夫がされているのか調べてみようということになり、私たちは売られているフットカバーをかき集め、担当者皆で毎日履いてみました。
どのフットカバーも見た目は良く似た形をしているのですが、その工夫は多種多様でした。全く脱げないものもあれば、脱げにくいけれど結局脱げてしまうものもありました。脱げなくてもアキレス腱辺りに履き口の跡がつき、しばらくすると痛くなるものも。
また、脱げるものと脱げないものが担当者によっても違うようです。
私たちが履いてみたフットカバーの一部をご紹介します。
脱げなかったフットカバー
履き口裏側に入っている太いゴムのためか、足にぴったりフィットして一度も脱げませんでした。足裏にホールのあるフットカバー
脱げにくくしているようなのですが人によって効果はまちまちでした。
滑り止めつきフットカバー
踵に当たる履き口裏側に滑り止め用のゴムがついています。滑り止めのおかげでズレにくく脱げなかった担当者もいましたが、私は脱げてしまいました。
履き口部分が当たって痛くなったフットカバー
- アキレス腱付近
- 甲の部分
履き口が痛くならなかったフットカバー
- 履き口部分が折り返し縫いになっていないので肌に当たっていても跡がつきにくく痛みも感じなかったフットカバー。
また、同じ靴を履いていてもフットカバーが靴から見えるものと、見えないものがありました。
市場では靴を履いたときに見えにくい浅履きタイプが人気でした。
浅履きのフットカバー
指全体が覆われてはいないので、靴を履いてもフットカバーは見えません。
深履きのフットカバー
指先はもちろん、甲の部分も少し覆われているタイプ。
靴を履くとフットカバーを履いているのは分かります。深履きのものは比較的脱げにくかったのですが靴からははっきりと見えてしまいます。「脱げにくいこと」と「靴から見えないこと」はトレードオフといえそうです。
- 靴と同色のフットカバーだと見えても分かりずらい。
- 靴の形によってはフットカバーの見え方が均等でないので結構目立ちます。
何日にもわたり、皆で履き比べをしてみましたが、ずり落ち防止の工夫がされているものでも人によって脱げたり脱げなかったり。みんなが脱げないフットカバーは見つかりませんでした。
また、脱げなくても締め付け感があるものは痛みがでて長時間履いていられず履き心地は良いとはいえませんでした。
いくつものフットカバーを履いていると、脱げる現象はおおよそ同じパターンであることが分かりました。生地が少しずつ下がってきたと思ったら、そこから一気に外れてあっという間に土踏まずの辺りまで移動します。
フットカバーが踵から脱げるときの様子について、靴の中の様子を再現してみました。
脱げたことのある方には共感していただけるかもしれません。
フットカバーが脱げる様子
(靴の中で脱げていく様子を分かりやすくするため、
ここでは靴を脱いだ状態で再現しています)
さて、今回私たちが改良するフットカバーは、2009年以降、無印良品の婦人フットカバーの中で最も売れ続けてきた「かかとが深くてつま先が浅い足なりフットカバー」(婦人)です。
このフットカバー、販売数No.1というだけあり、お客様や社内では他のものよりも脱げにくいという声が挙がっていました。
この商品は、踵を包み込むようにゴムを入れることで(下図赤枠部分)踵を固定し、踵からフットカバーがずり落ちるのを防いでいます。
履き口のゴムは細すぎるとアキレス腱付近の一ヶ所にだけに力がかかり痛くなってしまうのですが、幅広のゴムを使うことで痛みがでにくくなっています。
既に工夫しているのですが、まだ不満もあります。この商品よりももっと良い商品にするために何ができるだろう。
ここで、私たちにいくつかの疑問が浮かび上がりました。
- そもそも、フットカバーを履いている人ってどれくらいいるの?
- 私たちの不満はお客様と同じなの?
- 脱げにくいフットカバーは他のお店でも販売しているけれど、みんな脱げやすいと感じているの?
どうやらフットカバーに関する基本的な調査が必要なようです。
私たちは一般の方々を対象にアンケートを行うことにしました。
次回は、インターネットを通じて行ったフットカバーのアンケート結果をご報告致します。
STEP3知りたい! みんなのフットカバー事情
フットカバーはどんな風に使われているのか、実際に使っている人はどんな不満を持っているのかを知るため、私たちはフットカバー使用状況のアンケートを行いました。
- 実施期間:
- 2013年11月30日~12月1日
- 2014年4月26日~4月27日
- 対象者:
- 20歳代~40歳代の女性 5705人
- (アンケート委託先:株式会社クロス・マーケティング)
今回のアンケートでは私たちが改良しようとしている形状と同じく、足首や甲を生地やストラップで覆っていないタイプのものを対象にしました。
- アンケートで対象にした形
- 対象外の形
Q.1 フットカバーを履いたことはありますか?
(足首が覆われてるものやアンクルストラップ付きを除く)
半数以上の方がフットカバーを履いたことがあると回答しています。
以降のアンケートではフットカバーを履いたことのある方に回答いただきました。
Q.2 春夏の着用頻度はどのくらいですか?
週に2~3日履く方が最も多いことが分かりました。
Q.3 フットカバーを履く理由はなんですか?(複数回答)
約9割の方が「素足で靴を履きたくない」という理由を挙げています。
第3位の「ファッション/おしゃれ」を大きく上回りました。
フットカバーは素足に見せたいだけでなく、実用面から使用されている方が多いのですね。
Q.4 フットカバーが脱げることはありますか?
靴を履いていないときに比べて靴を履いているときに脱げる人が多く、靴を履いている場合には70%の方が「いつも脱げる」または「脱げることが多い」と回答しています。
どうやら靴との相性も関係がありそうです。
そして、脱げることへの対応についても聞いてみました。
Q.5 フットカバーが脱げることへの対応はどのようにしていますか?(複数回答)
脱げるたびに履き直す人が圧倒的に多く86%でした。
たしかに脱げたままでは足に違和感がありますよね。
滑り止めや足首にストラップがついているものを選び、脱げないようにしている方もいらっしゃいます。
Q.6 フットカバーに対する不満はありますか?(複数回答)
約9割の方が踵から脱げることに不満を感じていることが分かりました。
私たちが感じていた不満は多くの方々に共通していたようです。
Q.7 購入するときのこだわりはありますか?(複数回答)
脱げない・脱げにくいものを選んで購入している人が約70%もいます。6位には、踵に滑り止めがあるものと回答している方も見られ、不満は共通していることが分かりました。
その他、色も購入時のこだわりのようです。
Q.8 フットカバーにどんな靴をあわせますか?(複数回答)
(春、夏、秋、冬それぞれの回答の平均)
パンプスやフラットシューズ(バレエシューズ)に合わせる人が多く、その他スニーカーを履く方もいることが分かりました。
また、夏はヒール付きサンダルと合わせたり、冬はブーツと合わせたりする方もいらっしゃいました。
フットカバーは1年を通して使用するフットアイテムになっているのですね。
Q.9 今後もフットカバーを履きますか?
全体の94%の方が今後も使用したいと回答しています。
フットカバーを履く理由に「素足で靴を履きたくない」という理由が多かったことからも、フットカバーは必須アイテムと考えている方が多いようです。
アンケートの結果から、脱げることへの不満は予想以上に多く、特に靴を履いているときに脱げる方が多いことが分かりました。
「脱げにくいフットカバー」を目標に、いよいよ私たちの改良が始まりました。
アンケートにご回答いただきました皆様、ご協力ありがとうございました。
STEP4試作品が出来ました
前回お伝えしたアンケート調査の結果、脱げにくいフットカバーは私たちの予想以上にたくさんの人に求められていることが分かりました。
「脱げにくいフットカバー」という最終目標に向けてどこをどう改良するか。フットカバーはつま先と踵、足裏を覆っているだけのものなので、いざ改良するとなると改良する場所も限られてきてしまいます。足首にストラップをつけず、滑り止めのゴムなどもつけず、出来るだけシンプルな形で脱げにくくするためにはどうしたら良いか……
私たち開発担当者も頭を悩ませました。
そこで、無印良品のフットカバーをつくってくださっている吉谷靴下株式会社に相談してみることにしました。
奈良県三宅町に本社を構える靴下工場、吉谷靴下株式会社には改良する前のフットカバーだけでなく、無印良品の足なり直角靴下など多くの靴下を作っていただいています。
これまでにも、品質・生産革新部の向井さんや藤原さんには足なり直角靴下のリニューアルの設計をお願いし生産に限らず開発面でもお世話になっていました。
- 吉谷靴下株式会社 外観
向井さんと藤原さんには、フットカバーが踵から脱げる女性が多いこと、そしてこの不満を解消するために脱げにくいフットカバーを目指して改良したいことをお話しました。
今発売しているものもたくさんの工夫が施されているだけに、これ以上の改良はなかなか難しそうでしたが、快く引き受けてくださりました。
そしてしばらく経った数か月後。
私たちの手元に試作品が届きました。
このフットカバー、一見どこにどんな工夫がされているのかわからないくらいシンプルな形をしていました。
完成した試作品
設計してくださった向井さんによると、
「踵から脱げるということは皮膚と生地の摩擦が少ないということ。つまり、ずり落ちてくる部分を摩擦の大きい生地で覆い、ずり落ちにくくすれば良いのではないか」と考え作られたものだそうです。
- 踵部分の断面
その仕掛けは靴下の裏側にありました。
よく見ると、靴下の裏側、アキレス腱付近にあたる生地部分周辺にだけ別の糸が編み込まれています。これはダウンストップと呼ばれる滑りにくい糸だそうです。実体顕微鏡で見るとゴムのように伸び縮みするポリウレタン糸を芯として、その周りにナイロンを巻き付けた構造をしています。
- 踵部分 裏側
白く見えるところがダウンストップが入っているところ - ダウンストップを編み込んだ生地
この糸を肌と接する裏側に編み込むことによって、歩行時のフットカバーのずり落ちを軽減するというものです。ダウンストップの部分を手で触ってみると、たしかにほかの部分とは違って滑りにくい感じがします。
私たちはさっそく試し履きをしました。かなり脱げにくくなっています。
また、履き口のゴムをきつくして脱げにくくしているわけではないため、ゴムの強い締め付けがなくアキレス腱辺りの痛みも感じませんでした。
- 試作品を履いてみました
- 白く見えるところがダウンストップが入っているところ。
滑りにくい糸で踵部分を広く覆っています。
実際には表側からダウンストップは見えません。
脱げにくく良いものができたと感じつつ、一般の方のご意見をいただくため、ホームユーステストにご協力いただける方を募集しました。
ホームユーステストとは?
主に一般消費者の方に新製品または改良品(試作品)や既に販売している自社製品と競合他社製品などを、家庭で実際に利用してもらい評価をしてもらう製品の評価の手法です。
ご協力いただける方にサンプルをお送りして実際に履いてもらい、アンケートに答えていただきました。
サンプルのフットカバーは全部で3種類。今回の試作品がどれくらい脱げにくいのかをみるために、2014年の夏に販売していた商品と、一般的な形のフットカバーも履いていただきました。
- 実施期間:
- 2013年12月7日~12月15日
- 対象:
- 20~40歳代女性56人
- 足のサイズ:
- 23~25cm
- 着用時間:
- 1足3時間以上(靴ありと靴なしを合わせて)
- 合わせる靴:
- 普段フットカバーと合わせている靴(指定なし)
サンプル
- ①今回の試作品
- ②2014年販売品
「かかとが深くてつま先が浅い足なりフットカバー(消臭)」 - ③一般的な形のもの
(滑りにくい工夫は特になし)
足のマネキン:株式会社七彩 作製
アンケート結果
Q.1 履いているときにフットカバーは脱げましたか?
靴を履いていないときと、靴を履いたときに分けて回答してもらいました。
靴無し
一度も脱げなかった人の割合
靴を履いていない場合には大多数の人が脱げなかったと回答しました。
靴 有り
一度も脱げなかった人の割合
今回の試作品は71%の方が一度も脱げなかったと回答しました。生地の裏に滑りにくい糸を入れた効果があったようです。
しかし、2014年の夏に販売していたもの(②)の方が、今回の試作品(①)よりも脱げなかった人の割合が多くなってしまいました。
Q.2 痛みや痒みを感じましたか?
痛みや痒みを感じた人の割合
今回の試作品は履き口のゴムをきつく締めつけてはいないので、痛みやかゆみを感じた人が最も少ない結果となりました。
ホームユーステストにご協力いただいた皆様、ありがとうございました。
痛みや痒みがないのに脱げにくいフットカバーとしては、今回の試作品はなかなか良いものになりましたが、私たちが目指すたくさんの人が脱げにくいフットカバーにはもう一歩という結果になってしまいました。
この結果を受けてどう修正していくか、私たちは悩みました。
私たちだけの考えで作ると、私たちはいいと思っても他の人には合わないものになってしまうかもしれない、とアンケート結果を見ながら心配になってきました。今回の試作を手掛けてくださった向井さんや藤原さんは男性だし、多くの女性にフィットするフットカバーってどんなものなんだろう……
わからないことは聞いてみよう!
そこで私たちが出した結論は、
多くの女性に参加してもらってたくさんの意見を聞きながらみんなで作ろう、ということでした。
今回のアンケートで試作品を履いてくださった方々に集まってもらい、その着用感や用途、気になる点などの経験をお互いに説明していただく方法で進めることにしました。みんなで話し他の人の経験を聞くことによって履いてくださった方は感じていた思いが言葉に表わしやすくなるし、私たちの課題もはっきりしてくるはず!
そしてその課題を向井さんや藤原さんと相談し解決案を形にしてもらおう。
私たちは座談会形式のグループインタビューを行うことにしました。
次回はその様子をお伝えします
STEP5グループインタビュー
前回ご紹介したホームユーステストの結果、私たちが良いと考えるフットカバーとお客様が求めるものの間にギャップがある気がしていました。お客様が求めるものを知りみんなが良いと思えるフットカバーにするために座談会形式のグループインタビューを行いました。今回はその様子を紹介します。
ホームユーステストで実際にサンプルを履いてくださった方の中から18名の方に集まっていただきました。
私たちが直接質問したりお話を聞いたりすると、参加者の方はなかなか意見が言いづらくなってしまうので、司会と進行はプロの方にお願いしました。私たちはモニター越しにインタビューの様子を見せてもらいました。
- 実施日:
- 2013年12月21日(土)
- 参加者:
- 20、30、40歳代の女性、各年代6人ずつ
- 足のサイズ:
- 23~25cm
- 時間:
- 1グループ2時間
- インタビュー内容
- 1)フットカバーを履く理由
- 2)フットカバーを買うときに重視すること
- 3)フットカバーの不満点
- 4)試作品を試した感想
- 5)まとめ
- 1)フットカバーを履く理由を教えてください
-
・素足で靴を履きたくないため
・素足で仕事に行けないため
各年代共通して多かったのが、この2つでした。
実用的な理由ですね。
みなさんからの意見をまとめると、見た目を重視したファッション的な理由が多くみられました。
<ファッション的な理由>
・ストッキングの代わりに履いて素足に見せたいため
・靴との組み合わせを楽しみたいため。
<実用的な理由>
・人の家に上がるときに素足で行っても玄関でさっと履けるため
- 2)フットカバーを買うときに重視することは何ですか?
-
・脱げないこと
・服に合わせやすい色や靴から見えても良い色であること
・つま先から甲までの覆われている部分が浅くなっていること
脱げないことが最も重視する点として挙がりましたが、色や靴から見えないことという意見も多く見た目も重要であることがわかりました。みなさんからの意見を大きく分けると、
<着用したときの快適感>
・母指球が当たる部分が厚くなっていること
・つま先にクッションがついていること
・つま先が圧迫されないこと
・耐久性があること
・踵に滑り止めつきであること
・綿混素材であること
<見た目の良さ>
・靴から見せてコーディネートを楽しめること
・コーディネートのアクセントになること(差し色、花柄)
私たちは脱げにくいという着用時の快適感に着目して開発していましたが、脱げないことや痛くないこと以外に見た目も重視しているみたいです。
- 3)普段履いているフットカバーの不満点はどんなところですか?
参加してくださった皆様にその場でフットカバーを履いてもらいどんな時にどんな風になるところが不満なのか具体的に教えてもらいました。
不満点の中でもダントツに多かったのが、歩いているうちに脱げるということ。踵から脱げるという意見が多かったのですが、なかには横から脱げたり、小指から脱げたりするという人もいました。脱げるにもいろんなパターンがあるようです。
また、靴からフットカバーが見えてもいいのは5mmくらいまでで、踵から見えるのはイヤという意見も。踵のゴムがきつく赤くなっていたり、親指部分が突っ張って痛いという様子も実際に見せてもらいました。
<着用時の快適感の不満>脱げる・痛い
<見た目の不満>靴から見える
-
- 靴からの見え方;5ミリくらいなら見えてもいい
みなさんの足を見せてもらうと、親指が長かったり、足幅が広かったり、外反母趾だったり、足の形が様々で、そのため人によって脱げ方や痛みがでる場所も違っていることが分かりました。
そして着用時の快適性はもちろん、やっぱり見た目の良さも重要なポイントになっているようです。
さて、いよいよ今回の試作品についての感想を聞いてみます。
踵の生地の裏側に滑りにくい糸を編み込んだ試作品の履き心地はどうだったのでしょうか。
参加してくださった皆さんには、どのような工夫をしたものかお知らせしていません。
どんな意見が出るのか、私たちもモニター越しにドキドキしていました。
- 4)今回の試作品を試してみていかがでしたか?
試作品:踵の裏生地に滑り止め効果のあるダウンストップを入れたもの
満足点
<着用時の快適感>
-
・長く歩いても脱げないので、これなら1日中履いていてもストレスがないです
・踵から下がってきたけれど全部は脱げなかったから合格点かな
・脱げるまでの時間がいつも履いているものよりも長かったです
・脱げないことは期待していなくて、そこそこ脱げなくて洗濯に耐えられればリピートすると思う
・履くときに伸びるのに足に沿ってちゃんとピタッと密着する。フィット感がよくて脱げないのがいい
・履いたときの肌触りがよくて、締め付け感がない
・生地が伸びやすくて普段履いているものよりも痛みが出にくかった
・つま先にタックが入っていてゆとりがあるので、履き心地は良かったです
・つま先の先端に微妙に切り替えがあって濃くなっているので、つま先がカバーされている感じがあった
<見た目の良さ>
-
・色がチャコールグレーだったので洋服と合わせやすかった
不満足点・要望
<着用時の快適感>
-
・脱げにくいけど結局脱げちゃうので他のフットカバーと同じ
・つま先と脇のゴムに締め付け感があって、突っ張っている感じ。キツイから脱げないのかと思った。脱げないならキツイのは我慢できる
・踵のゴム部分が肌に当たって赤くなる
<見た目の良さ>
-
・つま先が浅い方が好きで、これは靴から見えすぎる
・甲の部分の形状はV字だと靴から見えてしまうのでラウンドの方が手持ちの靴に合う
・つま先部分だけでなくこれは横も踵からも生地が見える
・つま先はきついけど、踵は余る
・歩いているうちに踵の足底部分が余る
<その他>
-
・踵と土踏まずの間の縫い目が気になる
・室内で履いていたらフローリングで滑った
・洗濯による耐久性がわからないから良いのか悪いのかなんともいえない
私たちが試作品を履いたときには気が付かなかった多くの意見がでました。
ホームユーステストでみなさんに履いていただいた2014年の販売品や一般的な形のフットカバーに比べると試作品は好評だったのですが、こんなに多くの不満が挙がるとは思っていなかったので、ショックです。
- 5)まとめ
多くの方が求めること、そして今の試作品に足りないところ。
参加いただいたみなさんの意見から課題が見えてきました。
今回の試作品は実用性からみると履き心地は良かったのですが、脱げないことと足の痛みという点ではもう一歩で、ファッション性からみると甲の部分からも踵の部分からも見えすぎる点が良い評価が得られなかった原因だと分かりました。
もう少し脱げにくく足の痛みがでないようにすることと、靴から見えにくい形に改良すること。この2つを両立するのは実はすごく難しいんです。ただ脱げにくく痛みがでないようにするだけなら、足をフットカバーでしっかり覆ってしまえばいいのですが、そうすると靴からはたくさん見えてしまいます。逆に靴から見えにくくすると、足を覆う部分が少なくなるので脱げやすくなってしまうのです。そして脱げにくくするためにきつくすると足に痛みがでてしまいます。
着用時の快適感と見た目の両立。多くの女性が求めていたのはこれだったのですね。私たちの新たな課題が見つかりました。
脱げにくく、痛みがなく、靴から見えないように。多くの女性に着用時の快適感と見た目の良さの両方を満足してもらえるようなフットカバーを目指して私たちは更なる改良を始めました。
グループインタビューでは、たくさんのご意見、ご要望をいただきました。
ご参加いただいた皆様、ご協力いただきありがとうございました。
次回は試行錯誤してようやく完成したフットカバーについてご報告します。
STEP6改良に改良を重ねた試作品ができました
1.次なる改良までの道のり
グループインタビューの結果、多くの女性が求めているフットカバーとは脱げにくく痛くない、そして靴から見えないことだということが分かりました。前回の試作品の履き心地はそのままに、着用時の快適感と見た目の良さを両立するにはどうしたら良いか、試作品を作ってくださっている吉谷靴下㈱の向井さん、藤原さんと私たちは悩みました。
前回のアンケートやグループインタビューの結果から、生地の裏に滑りにくい糸(ダウンストップ ※1)を編み込むことで脱げにくく痛みが出にくい方向に向かっていることは分かりました。このダウンストップをもう少しうまく使えないか。 ※1 ダウンストップはゴムのように伸び縮みするポリウレタン糸を芯として、その周りにナイロンを巻き付けた繊維です
そこで向井さんが思いついたのは、ダウンストップを履き口の裏側、しかも全周に入れるという方法です。
試作品第1弾
踵の部分に着目
試作品第2弾
履き口全体に着目
- 履き口の白く見えるところがダウンストップ(実際には裏側に入っているので表からは見えません)
- 履き口はゴムによって足に密着しているので履き口のところにダウンストップを編み込んで摩擦を大きくした
試作品第1弾を作った時、私たちは踵から脱げることに着目し踵の皮膚とフットカバーの接するところにダウンストップを入れて摩擦を大きくすることで脱げにくくしました。しかし、グループインタビューでみなさんのご意見や経験を聞くと小指や横から脱げたりする人もいて脱げ方は人によって様々でした。
それならフットカバー全体が履いたときのまま履き口の位置や状態をキープできるようにしたらいい。ダウンストップを肌と生地が密着する履き口全周に入れ摩擦を大きくしよう。
そしてこのひらめきが私たちの課題を解決する近道になりました。
向井さんが考えた改良アイデアはこんなふうです。
向井さんの考えによると、
- 履き口の裏側と肌の摩擦を大きくすれば履き口がずれにくくなるので、踵だけでなく指や横側からも脱げにくくなる
- 脱げにくければ履き口をきつくしなくても良いので踵などの履き口部分が痛くなりにくくなる
- 生地と肌の摩擦が大きくなれば、甲を覆う生地の面積を少なくしてもずれにくく靴を履いてもフットカバーが見えにくくなる
なるほど、この方法なら「足から脱げること」、「足(特に踵部分)が痛くなること」、「靴から見えすぎること」、この3つの課題が一気に解決しそうです。
また、つま先部分の痛みについては、つま先部分を幅広にして指が外側から内側に押されて痛くならないようにし、更につま先部分の編目を大きくして横方向に伸びやすくすることでつま先が痛くならないようにしようという作戦です。
2.試作品 第2弾
試作品第2弾を担当者みんなで履いてみると、5人中4人が一度も脱げませんでした。しかもずれにくいので、もうすぐ脱げそうという感覚もなく、脱げることを気にせずに歩けました。履き口全周に入れたダウンストップの滑り止め効果のすごさを実感しました。
また、試作品第1弾と履き比べてみると、試作品第2弾は甲を覆っている部分の面積が少なくなっているのがはっきりとわかります。
靴を履いて比べてみると、試作品第1弾に比べて靴から見える部分がかなり少なくなりました。グループインタビューでは「5mmくらいなら見えてもいい」という意見がでたのでこれくらいの見え方なら合格ラインといえそうです。しかし歩いているうちにつま先の生地が内側に寄ってきて履いた直後よりも見えてきてしまいました。履いたときの状態のままを維持できると良いのですが。
3.試作品 第3弾
完成まであともう一歩! ダウンストップの位置はそのままにして、靴からもう少し見えにくくした試作品を作っていただけるよう向井さんと藤原さん(吉谷靴下㈱)にお願いしました。
試作品第3弾では、小さめ、ふつう、大きめの3つの大きさを作ってもらいました。
実は社内で試し履きをしたときのみんなの感想から、脱げにくさや靴からの見え具合、つま先の痛さはフットカバーの大きさとも関係しているかもしれないと考えたからです。
出来上がった試作品第3弾を社内の女性6人(通常の靴のサイズ23.0cm~24.5cm)で各大きさを履いてみた結果、目標に対する評価は次のようになりました。
改良点 | 小さめ | ふつう | 大きめ | |
---|---|---|---|---|
着用時の快適感 | 靴から脱げにくいこと | ○ | ○ | ○ |
足が痛くないこと | ○ | ○ | ◎ | |
見た目の良さ | 靴から見えにくいこと | ◎ | △ | △ |
その他 | 足裏の踵が余る △ |
- 小さめ
- ふつう
- 大きめ
- 足の裏が余る
ついに全員が脱げない結果となりました。脱げにくさと痛みがでない点(着用時の快適感)はクリアしました。ただ、靴からの見え方は予想通りフットカバーの大きさによって違う結果になりました。
小さめのフットカバーはかなり見える面積が少ないですが、大きめのフットカバーは試作品第2弾よりも見えてしまいました。う~ん、この見え方はちょっと厳しいですね。小さめくらいの見え方で、サイズはもう少し大きい方がいいというのが私たちの結論でした。
そしてもうひとつ、足裏の踵部分が余るという新たな問題もでました。
試作品第1弾からここまで、かなり改良されたのは事実です。でも私たちが目指す完成形まではあともう一歩。ここまできたのだから、多くの女性に満足してもらえるものを目指してあと少し改良したい。
度々のお願いとは思いながらも、私たちは再び向井さんを訪ねました。そして今回の試作品の小さめくらいの見え方でふつうくらいの大きさにしたいことと、足裏の踵のダボつきを抑えたいことを相談しました。向井さんは「難しいけれどチャレンジしてみるよ」と私たちの要望を聞きいれてくださいました。
4.試作品 第4弾
そして、ついに4度目の試作となる試作品第4弾が出来上がりました。
向井さんによると、履き口にダウンストップを入れ足から生地がずれにくくなった分、少しだけ甲を覆う部分の面積を少なくすることができたとのこと。足裏のダボつきも調整していただき解消されています。
もちろん、社内での試し履きでは全員が脱げなくて痛みもないという結果になりました。
- 試作品第4弾
- 足の裏もスッキリ
見え方を確認するため無印良品の色々な靴と合わせてみると、他の靴でもフットカバーは靴から見えにくくなりました。
5.完成品と改良ポイント
脱げにくくて痛みも出ないこと(着用時の快適感)と、靴から見えにくいこと(見た目の良さ)。ついにこの相反する2つを満足する形が出来上がりました。
- 改良①履き口の裏側全周にダウンストップを挿入
- 改良②つま先部分を幅広に
改良③つま先の編目を大きく
改良ポイントのまとめ
改良①
履き口の裏側全周にダウンストップを編み込みました。なんといってもこれが今回のフットカバーの最大のポイントです。
これによって履き口全体がずれにくくなり、踵からもつま先からも、そして横からも脱げにくくできました。脱げにくいので履き口をきつくする必要がなく、アキレス腱部分やつま先に痛みや突っ張り感がでにくくなりました。
また、これまでの形だと甲の部分の生地を少なくし靴から見えにくくすると、脱げやすくなってしまっていましたが、履き口自体がずれにくくなっているため足を覆う生地の量を少なくでき、靴を履いても見えにくくすることができました。
改良②
つま先部分の形を幅広にしました。これによって親指側と小指側から内側にむかって押されにくくなるので、つま先の痛みが出にくくなりました。
改良③
つま先部分の編目を大きくしました。これによって伸びやすくなり指同士の重なりや窮屈感を抑えられるのでつま先の痛みが出にくくなりました。
多くの女性の意見をもとに改良を繰り返して完成したフットカバーは、私たちが自信を持って「よい商品」と言えるレベルにすることができました。あとは多くの女性にとっても満足できるものになったのかどうかです。
前回の試作品を試してくれた方や普段から脱げる経験のある人に是非試してもらいたい!
私たちは再度ホームユーステストを行って完成した試作品第4弾を履いてもらうことにしました。
次回は2度目のホームユーステストの結果をお伝えします。
STEP7みんなで作ったフットカバー その出来はいかに?!
改良を重ねて出来上がった試作品第4弾。
これはみなさんから多くの意見をいただいて一緒に作ったフットカバーです。
私たちではなく、皆さんに満足してもらえるものになったのでしょうか・・・。
一緒に作ってくれたみなさんに改良品の報告を兼ねて再びホームユーステストをお願いしました。
ここで改良ポイントのおさらいです。
改良①
履き口の裏側全周にダウンストップ(※)を編み込みました。
→脱げにくく、そして履き口やつま先が痛くなりにくくなりました。
また、ずれにくくなったので足を覆う生地の量を少なくすることができ、靴を履いても見えにくくなりました。
(※ダウンストップはゴムのように伸び縮みするポリウレタン糸を芯として、その周りにナイロンを巻き付けた繊維です)
改良②、改良③
つま先部分を幅広にし、編目を大きく伸びやすくしました。
→つま先が窮屈になりにくいので、痛くなりにくくなりました。
ホームユーステスト概要
- 実施期間:
- 2014年5月8日(木)~5月15日(木)
- 対象者:
- 20~40歳代の女性 60名
インターネットで行ったフットカバーアンケートにご協力いただいた方の中から42名と、1回目のホームユーステストにご協力いただいた方の中から18名 - 普段履いている靴のサイズ:
- 22~25cm
- 着用時間:
- 靴を履いて3時間以上
- 合せる靴:
- 普段フットカバーと合わせている靴(指定なし)
ホームユーステストにご協力いただいたみなさんには、どこをどのように工夫したものなのかお伝えしていません。
アンケート結果
Q.1 フットカバーを履いていて脱げることはありましたか?
一度も脱げなかった人と、いつも履いているものよりも脱げなかった人を合せると約97%です。多くの女性にとっても脱げにくくなっています。
Q.2 フットカバーを履いていて痛みやかゆみを感じましたか?
つま先と履き口に分けて回答してもらいました。
①つま先
約92%の人が痛みを感じなかったと回答しました。
つま先を幅広にしたことと、編目を大きくして伸びやすくしたことの効果がありました。
②履き口
痛みやかゆみを感じた人を合わせると約12%です。
一般的なフットカバーのアンケート(第3回「知りたい! みんなのフットカバー事情」)では、約20%の方が痛みやかゆみを不満に感じていました。
試作品第4弾はつま先が窮屈にならないようにし、履き口のゴムもきつくならないようにしたため、痛みやかゆみを感じる人が少なかったといえます。
Q.3 靴を履いたときのフットカバーの見え方はどうでしたか?
普段履いているものと比べて回答してもらいました。
普段のものよりも見えなかった人と、普段のものと同じくらい見えなかった人を合わせると60%です。
私たちが試し履きをしたときは、靴からほとんど見えなかったので、見えなかったと回答する人がもう少し多いと予想していました。
この見え方に対してみなさんがどのように感じているのか気になります。見え方についての満足度を聞いてみました。
Q.4 靴を履いたときのフットカバーの見え方は満足ですか?
約77%の人が満足していると回答しています。
前の質問で靴から見えなかったと回答した人は60%でしたが、満足している人はもっと多いことが分かりました。
グループインタビューでも「5mmくらいなら見えてもいい」という意見が出たので、少しなら靴から見えてもいい、と感じている人が多いということですね。
Q.5 脱げにくいフットカバーとして発売された場合、使ってみたいですか?
使ってみたいと回答した方は、約77%もいることが分かりました。
その理由をフリー回答で聞いてみました。
脱げないことやずれないことを理由に挙げている人が、最も多いことがわかります。
脱げにくいことがフットカバーの満足度に繋がり、「使ってみたい」と感じてもらえたことがわかりました。
また、Q.3の質問で痛みやかゆみを感じた人が少なかったことからもわかるように、サイズが合っている/窮屈感がないと回答した人も多いです。
今回のホームユーステストの結果をまとめると次のようになりました
質問 | ホームユーステストみなさんの評価 | |
---|---|---|
着用時の快適感 | 足からの脱げにくさ | ◎ |
痛くなりにくさ | ◎ | |
見た目の良さ | 靴からの見え方の満足度 | ◎ |
- 足からの脱げにくさ
- 痛くなりにくさ
- 靴からの見え方の満足度
この3つは、私たちだけでなく多くの女性にも満足していただけるものになりました。
みなさんと一緒に改良してきたフットカバーはついに完成です!
ホームユーステストにご協力いただいた皆様、ありがとうございました。
次回は、フットカバーの試作や設計を引き受けてくださった吉谷靴下株式会社の向井さんと藤原さんにお話しを伺います。
度重なる試作のお願いにも快く引き受けてくださったお二人にフットカバーのこと、開発中の思い、今回の完成品ができるまでの苦労したことを聞いてみました。
STEP8開発秘話‐靴下職人へインタビュー
写真 吉谷靴下株式会社
(左)品質・生産革新部 部長の向井道郎さん
(右)品質・生産革新部 課長の藤原博文さん
フットカバーの設計や試作を引き受けてくださった吉谷靴下株式会社の向井さんと藤原さん。私たちは、お二人のことを靴下のプロと呼んでいます。今回のフットカバーは、お二人の長年の経験や知識、そして技術により形にすることができました。
今回はそんなお二人に、フットカバーのこと、開発中の思い、完成品ができるまでに苦労したことをインタビューしました。
- 開発担当者
- フットカバーの改良について、最初に私たちが相談したとき、どのように思われましたか?
- 吉谷靴下
株式会社 -
これまで販売していたフットカバーも、幾度となくテストを行いリニューアルを重ねて進化し続けてきた商品でした。
でもお客様に不満な点があるのなら、それを掘り起して更に多くの人に愛用して頂けるようにすることが私たちの使命だと思っています。改良には喜んで協力させていただきました。 それに、昨今の靴下市場の変化から、”今後発展の可能性がある”とも感じていたんです。 - 吉谷靴下
株式会社
- 開発担当者
- 靴下市場の変化ですか??
- 吉谷靴下
株式会社 -
そうです。
みなさん、靴下って秋冬に履くものでしたよね? 夏は裸足という人が圧倒的なんです。
その常識を変えたのがフットカバー。秋冬以外の真夏に履く靴下が登場しました。 - 吉谷靴下
株式会社
- 開発担当者
- なるほど。 秋冬に履く靴下は保温、防寒の用途が多いけれど、フットカバーは素足で靴を履きたくないからという理由や蒸れやべたつきを抑えたいからという理由で春や夏に履いている人が多かったです。 他のフットウェアとは履く季節も違うし、用途も違いますね。
- 吉谷靴下
株式会社 - 普及してまだ日の浅いフットカバーはもっと市場が広がり、発展できる商品だと思っています。
- 吉谷靴下
株式会社
- 開発担当者
- 今回のフットカバーは、最初どのような方法で開発しようと考えたのですか?
- 吉谷靴下
株式会社 - 今回の課題に対して、滑り止めのようなものを後から付けるのではなく、編地自体に滑り止め効果を持たせる方法で、脱げにくいと実感してもらえる商品にすることが必要だと考えました。
- 吉谷靴下
株式会社
- 開発担当者
- 今回履き口の裏側に入れているダウンストップという糸について教えてください。
- 吉谷靴下
株式会社 -
ダウンストップは伸縮性の高い”ポリウレタン”を主原料とした糸で、上着、下着、ストッキング、ソックスなどに幅広く使われています。
ゴムのような手触りなので、今回は滑りにくい糸として用いました。 開発当初、このダウンストップをかかとの後ろ全体に使い、脱げにくい試作品を作って多くの女性に履いていただきましたが、効果のない人もいて断念しました。この位置に入れても人によってばらつきがでてしまうな、と(参照「4. 試作品ができました」)。 一般に、滑り止めというと踵の位置に入れているものがほとんどですが、実際に履いてくださった方々の意見を聞いたり、脱げたときの様子を見せていただいたりして、踵の位置ではダメなんだと気づかされました。 - 吉谷靴下
株式会社
- 開発担当者
- その次の試作品からはダウンストップを履き口の裏側に入れていましたよね。
- 吉谷靴下
株式会社 - もともとダウンストップに滑り止め効果があることは分かっていました。だからその効果を発揮できる位置を探しました。そこで、浮かんだのが靴下本来の凹凸を利用することでした。
- 吉谷靴下
株式会社
- 開発担当者
- 靴下本来の凹凸?
- 吉谷靴下
株式会社 -
靴下には、ゴムが入っていて端を止めるように編んでいるところがあり、私たちの靴下業界ではこの部分を”ウエルト(welt)”と呼んでいます。
今回のフットカバーにもこの位置に(下図黄色枠部分)ウエルトがあります。 そのウエルトの裏側に、粗い編み目部分が見えますよね。
ここにダウンストップを編み込むことに着目しました。 - 吉谷靴下
株式会社
- 開発担当者
- ウエルトの裏側は、私たちが”履き口の裏側”と呼んでいたところですね。
- 吉谷靴下
株式会社 - ウエルトの裏側は生地が厚くなっているので、他の部分よりも肌に当たっています。そこにダウンストップを編み込めば、肌とダウンストップが確実に密着する。この位置の方がダウンストップの滑り止め効果がでやすいと考えたんです。 そしてもうひとつ。フットカバーを履くと、つま先⇔アキレス腱方向に履き口が伸ばされ、特にアキレス腱部分は伸びが大きくなります。生地の伸びとともにダウンストップも伸び、肌とダウンストップはさらに密着します。これによって、一番ずり落ちやすい踵からも脱げにくくできました。
- 吉谷靴下
株式会社
- 開発担当者
-
そこまで考えられていたなんて知りませんでした!
まさに、フットカバーの形状とダウンストップの特性を最大限生かした設計ですね。
- 吉谷靴下
株式会社 - 履き口裏側にダウンストップを編み入れることは画期的で、他社ではやっていない試みです。特許も出願しています。
- 吉谷靴下
株式会社
- 開発担当者
- フットカバーを愛用されている方々にグループインタビューを行いましたが、映像をご覧になっていかがでしたか?
- 吉谷靴下
株式会社 -
想像以上に使用用途が広く、着用シーズンが長いことに驚きました。
それに年代別で求められることも違っていて。 - 吉谷靴下
株式会社
- 開発担当者
-
そうですね。
ブーツと合わせて履く方もいらして、春や夏だけでなく一年中愛用されている方が多かったですね。40歳代の方の中にはオシャレのために、靴からあえて見せて履くという方もいらっしゃいました。
- 吉谷靴下
株式会社 - みなさんのリアルな意見から、フットカバーが時々脱げる人にとっては不快感があり、絶対脱げる人にとっては不信感があるということがわかりました。
- 吉谷靴下
株式会社
- 開発担当者
- 今回のフットカバーは、4度目の試作でようやく完成しました。出来上がるまでに苦労した点はありましたか?
- 吉谷靴下
株式会社 -
人により踵の形が違っている点をどうカバーするか、これが最も苦労した点です。
例えば、人は足の長さや足幅だけでなく踵の形も違っているので、Aさんは脱げないけど、Bさんは時々脱げる、Cさんはすぐ脱げるというように個人差があるんですね。
そのためどういう足の形の人に合わせた設計にするか、これを決めるのが大変でした。 私たちは男性でサイズが合わないので、試作のたびに自社の女性社員にも履いてもらい、検証を行いました。 - 吉谷靴下
株式会社
- 開発担当者
- 実際に販売する商品の製造もお願いしていますが、今回のフットカバーを生産するにあたり、苦労されたことはありましたか?
- 吉谷靴下
株式会社 -
ありましたよ~。
生産するとなると、継続してたくさんの量を作らなければならないため、原料と設備の確保が重要です。 ダウンストップは色々な用途に使われているとお話しましたが、今回のフットカバーに合った糸を安定して供給してくれるところを確保しなければなりませんでした。 また、これまでと違う商品を作るわけですから、工場での大量生産でも同じものが作れるように編み機の調整が必要でしたし、足りない部品がある編み機には新しいものを購入して取り付けて使えるようにしました。 それらが整って初めて、商品化ができるんです。 - 吉谷靴下
株式会社
- 開発担当者
- 試作品ができたから、商品もできる、とは限らないんですね。 今回のフットカバーで是非みなさんに知ってもらいたいことはありますか?
- 吉谷靴下
株式会社 -
一般的に売られているフットカバーと作り方が違うということです。
一般的なフットカバーは、
1)まず普通の靴下のように編む
2)カバーの形状に沿って裁断する
3)履き口にゴムを縫い付ける
ここでフットカバーの形は完成で、最後に
4)生地のかかと側にシリコンなどの滑り止めを付ける 一般的なフットカバー という4つの工程から作られています。 でも今回のフットカバーは2)、3)、4)の工程を省いています! - 吉谷靴下
株式会社
- 開発担当者
- 1)の工程だけで出来てるんですか?!
- 吉谷靴下
株式会社 - そうです。普通の靴下のように編むというのは同じですが、後から裁断しなくていいように最初からフットカバーの形に編み、最後に履き口裏側にダウンストップを編み込んでいます。 編む時間も短縮できるし、生地の無駄がないので環境にもやさしい設計なんですよ。
- 吉谷靴下
株式会社
- 開発担当者
- 生産の裏側にそんな工夫があったなんて知りませんでした。
- 吉谷靴下
株式会社 - 私たちがおすすめするポイントは3つです。 ・履き口の裏側にダウンストップを編み込んでいるので脱げにくくなっています。 ・かかとには滑り止めのシリコンゴムなどがついていないので、違和感がなく履くことができます。 ・つま先は縫っていない縫製(無縫製)になっているため、縫い目が当たることによる痛みが出にくくなっています。 みなさんには、実際に履いてみて今回のフットカバーの良さを実感していただけたらと思います。
- 吉谷靴下
株式会社
お客様に喜んでもらえる商品にするため、課題に向き合い続けるお二人の姿勢に職人魂を感じました。現状に満足せず問題を掘り起こして考える探究心は、私たちも持ち続けていきたいと思います。
向井さん、藤原さん、ありがとうございました。
2015年3月4日の発売を目前に、「商品の特長と着用するときのポイント」をお知らせします。
STEP93月4日(水)いよいよデビュー
フットカバーの連載もいよいよ大詰め。
改良したフットカバーは、「つま先ワイド 脱げにくいフットカバー」として、2015年3月4日(水)にデビューします。
これまでのフットカバーをゼロから見直し、多くの女性が求めているフットカバーを作りたい! という思いからスタートしたこのプロジェクトでは、多くの女性にご意見やご要望をいただきながら一緒に作ってきました。
3200人の方がインターネット上でアンケートにご回答くださり、一部の方には出来上がった試作品をモニターとして使用していただき、グループインタビューで実際にフットカバーを履いて試作品の良いところや気になるところを教えていただきました。
ご協力いただいたみなさんと一緒に理想のフットカバーを模索し、向井さん、藤原さんにはそれを形にしていただき、試作と評価を繰り返してようやく完成しました。
このフットカバーは、普段フットカバーを愛用している3200人の女性と、吉谷靴下株式会社のみなさんと、無印良品が一緒になって作った、コラボレーション商品です。
今回は、このフットカバーの特長と、フットカバーを着用するときのポイントをご紹介します。
このフットカバーは、商品名「つま先ワイド 脱げにくいフットカバー」の通り、つま先がワイドになっていて、足から脱げにくくなっています。
特長をまとめると、この3つです。
- 脱げにくい
- 痛くない(つま先、アキレス腱付近)
- 靴から見えにくい
それぞれの特長をもう少し詳しくみていきます。
特長①
まず、今回の一番のポイントは、「脱げにくい」ということです。
私たちだけでなく多くの女性が感じていた「脱げる」という不満を解決するため、履き口の裏側にぐるっと1周、ダウンストップという滑り止め効果のある糸を編み込みました。履き口の裏側にダウンストップを使うことにより、フットカバー全体がずれにくくなり、踵からだけでなく、横からもつま先からも脱げにくくなっています。
ダウンストップが入っていることは外側から分からず、もちろんその糸が肌に当たっているという感覚もありません。
(※ダウンストップはゴムのように伸び縮みするポリウレタン糸を芯として、その周りにナイロンを巻き付けた繊維です)
特長②
商品名に「つま先ワイド」とあるように、指の形に合うように横幅を広くし、編目を大きくしました。履いたときに生地が伸びやすく、痛みがでにくくなっています。
つま先部分
また、履き口のところのゴムは締め付けていないので、アキレス腱付近が痛くなりにくくなっています。
特長③
靴から見えにくくなりました。
「靴から見えない方がいい」、「靴から見えてしまうから靴と同色のフットカバーを選んで目立たなくする」という意見を多くいただいたのですが、靴から見えないように生地の量を少なくすると、脱げやすくなってしまい、両方を叶えることはすごく難しいことでした。
しかし、履き口のダウンストップによって皮膚とフットカバーがずれにくい(脱げにくい)ので、つま先部分の生地の量を少なく、靴から見えにくくすることができました。
ここからは今回のフットカバーを上手に履いていただくためのポイントをまとめました。
着用するときのポイント
前後の見分け方
つま先側(前)と踵側(後ろ)を間違えないように履いてください。
座談会形式のグループインタビューでは、「新品の状態では間違えなくても、洗濯したあとは間違えやすい」、「前後の区別がつきにくい」という意見をいただいていました。
でも、このフットカバーの見分け方は簡単です。
フットカバーを置いてみると、タテ方向に縫い目が入っています。これが履くときの目印になります。この縫い目が踵側の足裏にくるように履いてください。
前と後ろを間違えて履いてしまうと、踵と生地の形が合わないので足から脱げやすくなることがあります。また、踵側の方が大きくできているので、つま先側に履くと靴から見えやすくなります。履くときに縫い目を確認して履いてくださいね。
長く愛用していただくために
フットカバーと靴の組み合わせについて
フットカバーとそれに合わせる靴は、自分の足に合ったサイズのものをおすすめします。今回のフットカバーは21~23cmと23~25cmがあります。フットカバーが大きいと脱げやすくなってしまい、小さいと痛みが出やすくなってしまいます。
また、大きめの靴を履くと歩くたびに靴とフットカバーが擦れるため、毛羽立ちや毛玉ができやすくなってしまいます。
お手入れについて
このフットカバーは、ポリエステル(95%)とポリウレタン(5%)からできています。
タンブラー乾燥(回転式の乾燥機などによる乾燥)をすると縮むことがありますので使用は避け、洗濯後は形を整えて日陰干ししてください。
いかがでしたか?
試行錯誤しながらも完成したフットカバーは、私たちが自信を持ってオススメできる商品になりました。
そしてみなさんにもその良さを実感していただける商品になったと思います。
フットカバーがすぐ脱げてしまう、痛くなるという悩みをお持ちの方には、是非お試しいただきたい商品です。
形はとってもシンプルなので、使いやすくどんなコーディネートにも合わせやすくなっています。
商品の詳細については、発売日2015年3月4日(水)にお知らせします。
最後にプロジェクトにご協力をいただきました皆様、本当にありがとうございました。
STEP10商品発売のお知らせ
2013年の秋から開発してきた婦人用のフットカバーが発売になりました。
普段フットカバーを愛用している女性3200人と、吉谷靴下株式会社のみなさんと、無印良品が一緒に作った、コラボレーション商品です。
「こうだったらいいな」というみなさんの声が詰まったフットカバー、是非お試しください。
サイズ | 21~23cm 23~25cm |
---|---|
色 |
全6色
|
素材 | ポリエステル 95%、ポリウレタン 5% |
原産国 | 日本 |
2017年2月、脱げにくいフットカバーにオーガニックコットンを使ったもう一つの仲間がふえます。